「何処へ」


藍染の麻荒織の僧衣をまとい
いと、まるき、網代笠かむり
足に白脚絆、草鞋を結び
胸に袈裟行李、背に後附けと振り分けて
五十路近き、雲水の行くなり
粛々として、何処へと行くなり


甲斐に塩の山あり、南麓に古刹あり
全山は松の緑、朝の光に煌き
遠く、また、近く 赤松の太き幹の見ゆるなり
築地塀の小門をくぐれば、池あり、小さき水草の花の咲きけり
叢林は質朴として、七堂伽藍、ただ静まりおりぬ


境内にみめよき、梅の古木あり
欅の梢は鐘楼をおおい、晩秋の天空をめざす
梵鐘の声いくたび、山にこだまし
行者の回向幾許、諸人の求道幾許
されど時とどまらず、今日また古刹は夕景のなか


何処への解説