国境の町、満州里

     2002年7月9日夜9時30分、中国東北部の大都市ハルピンから  ロシア国境のまち満州里へ向けて、寝台特急『満州里号』に乗車した。外は9時だというのにまだ明るい。屋根の高い広いホームがいくつも並んでいるのがはっきり見渡せる明るさだ。それでも発車時刻になるとさすがに暗くなり、広く、ひっそりとした駅舎をあとに寝台特急『満州里号』は静かに動き出した。

途中いくつかの駅に停車した。ハルピンを離れるにしたがって駅が、街のたたずまいが小さくなっていく。駅を中心とした夜景 のひろがりでそれがわかった。幾つかの裸電球、明かりというより、灯、「ともしび」がほんのりと灯っているといった方がぴったりの懐かしい風景に出会う。

    同行者は5名、酪農家で肥育牛一筋に情熱を注いでこられたH さん。H さんはS県O町の町会議長さん。と私の中国の朋友李璞 と中国ハルピン国際経済技術合作公司呼蘭支社長の王さん。それに今回の満州里行きを企画してくださった本社企画室長の高さん と私の5名だ。

満州里号の寝台個室は対面上下二段なので高さん一人が別室になった。李璞、と王さん、Hさんと私、それぞれ自国語での会話となった。

しばらくすると、鉄路の規則的な音と適度な揺れに、誰からともなく寝入ってしまった。目が覚めると満州里号は海拉尓に停車していた。海拉尓から終点の満州里まではおよそ200キロ、まだ3時間はかかるという、 目に入るものは、緑、緑、緑一色だ。ところどころ草原の緑の中に楡や白樺の木立が現れ、小高い丘のような山が遠くに連なっている。見渡す限りの草原。平原を縫うように蛇行して流れていく河、黒々と朝日に光っている。見えるものは鉄路に沿って立つ通信用の電柱だけ、その電柱も役を終えたのか、ところどころで撤去され、砕かれた白い碍子のかけらが散在しているのが見えた。

   内蒙古自治州の面積は110万平方キロなんと日本の国土の三倍のひろさだ。中国は何処へ行っても列車の車窓から見る風景には広さがある。

   ここ満州里、海拉尓の草原は別格だ。小高い丘の上に立つと360度、一面の草原、空と草原が溶け合って地平線をつくっている。空の濃淡、雲の濃淡、草原の濃淡が綾なす景観、一瞬、一瞬、とどまることのない、光と影の芸術。日々の世迷いごとなど無縁と言うよりその介在を許さないと言ったほうが正しいかもしれない。この草原の7月の賛歌は長い冬を耐えぬいたこの地の人々のうえにこそあるのではないかと思った。