「タバコをやめただけでHDLコレステロールが39から45になった」


   
    40歳を目前にして狭心症といわれた。正確に言えば狭心症のほかに右脚ブロックといって右心室の弁の開閉に関わる神経の伝達が遅れるために血液の流入とタイミングが合わない部分があるということだった。右脚ブロックはスポーツマンに多いという。左脚ブロックなら大変だがそんな大きな心配はないと当時通いつけの開業医にいわれた。スポーツはやっていなかったが、体力を要する仕事に若い時から縁があった。そして激しい仕事を自分としては良くこなしてきたと思う。そんなところが医師のそんな診断に結びついたのだろう。いずれにしても私にとっては若い時から心臓にウイークポイントがあることをそれとなく自覚していたところがあった。それは母方の祖父や叔父に似て気管がとても弱かった。そして祖父の心臓の弱いところを叔父は受け継いでいることを小さいころから聞かされていた。そして叔父はそのうえにヘビースモーカーだった。いつも咳をしながらタバコを吸っていた。そして70歳になって間もなく心筋梗塞での突然の死だった。私の脳裏にはその叔父の死が強烈にインプットされていて、タバコをやめなければと折りにふれ思うことが少なくなかった。

  ところが止めなければと思う反面逆にタバコの量が増えていく傾向にあった。喫煙の欲求で身体の変調を知らせているような感じがあった。そんな状態が一年ほど続いて去年10月の初めのころ心筋梗塞の発作へと繋がった。その発作もおさまって2週間ほどのちに呼吸困難が起こってそのうえに足が浮腫んできたので病院にいくとそのまま入院になった。今思うとよくもまあそんなところまで我慢したものだと思う。採血、採尿、レントゲン、心電図、一通りの検査が終わると主治医に家族も診察室にはいるよういわれた。糖尿によって動脈硬化が進行している。糖尿の指標を示すヘモグロビンA@Cも10.3と高いのであなたの心筋梗塞の病状は決していい状態とはいえない。むしろ悪いほうに属するかもしれないと言った。ただ医師はなにを思ってかトータルコレステロールが139しかないことを話した。そのとき私は反射的に思った。だから心筋梗塞の発作が長時間に亘ったにもかかわらず意識もなくならずにすんだのだと発作が軽く済んだ理由を理解した。その後私は生検査の数値を断片的ではなく全般に亘って知っておきたいと思い看護師さんにたのんで生検査票のコピーを出してもらった。票を見て驚いた。票にはHDLコレステロールが39とあった。
 私は一瞬自分の目を疑った。なぜかといえば20年にわたって腸内細菌を予防のために食べ続けてきたのでそんなはずはないという想いがあったからだ。
 HDLコレステロールが39ということは、これまた動脈硬化なのだ。そのまま受け入れ難いところもあったがそれでも原因に思い当たることはないかと思い巡らした。そこでタバコであることに思い至った。

 喫煙によって毛細血管が常に収縮することによって動脈硬化が進行することに気が付いたのである。心筋梗塞の発作が起きて60日目、退院して20日目の生検査でHDLの値は45になった。今でも無性にタバコがすいたくなることがある。しかしタバコを吸っている時に比べ呼吸が楽になったことを思うと再び吸う気にはならない。F病院の循環器科の壁に「あなたの周りの人まで病気にする権利はない」というポスターに妙に同意させられた。