クイーンの定員 #012


女か虎か
The Lady, or the Tiger?

フランク・R・ストックトン
Frank R. Stockton

チャールズ・スクリブナー 1884年
New York: Charles Scribner's

 

 
Charles Scribner's
1st edition

「この作品の中には探偵はいない。しかし作品の外には無数の探偵がいる――その探偵たちはすべて著者の結句から生みだされるのだ」

エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)


 かつて『37の短編』(早川書房)に収録され、その復刻版である『天外消失』(早川ポケミス)にも収録された表題作「女か虎か」。米国人作家フランク・R・ストックトンはこの一作でミステリ史に名を残すことになったと言っても過言ではありません。多くの読者がこの有名なリドル・ストーリーの結末を知りたがり、ストックトンは続編「三日月刀の促進士」(EQMM 1958年1月号収録)を書き上げますが、そこでも結末は明かされませんでした。この謎に果敢に取り組んだのがハリウッドのシナリオ・ライターだったジャック・モフィットで、「女と虎と」(EQMM 1959年3月号収録)と題する短編をEQMM主催のコンテストに応募し、最優秀技能賞を受賞しました。モフィットの「女と虎と」では、若者や王女の派手な宮廷生活が活き活きと描かれ、若者が円形闘技場に連れて来られた経緯を詳細に描いています。そして本題の謎には驚くべき真相を用意しており、解決篇としては実に見事な仕上がりになっています。
 本短編集には「女か虎か」以外に二編の幽霊話が含まれていますが、ミステリと呼べるのはそれら三編のみで、他は全て普通小説です。おそらくエラリー・クイーンは「女か虎か」一作の価値で、本短編集を「クイーンの定員」に選んだのでしょう。ストックトンはミステリ以外にSFや子供向け小説も書いており、死ぬまで「女か虎か」の真相は明かさなかったそうです。


収録短編

女か虎か
−The Lady, or the Tiger?−
  その王国の罪人は円形闘技場に連れてこられ、二つある扉のどちらかを選択しなければなりませんでした。ひとつには獰猛な虎が入っており、罪人はその場で虎に食いちぎられます。もうひとつには絶世の美女が待ち受けており、妻や恋人がいようと、罪人はその女性と結婚することになります。ある日、ひとりの若者が王女に恋をし、それを父親の王様に知られます。王様の命令で若者は円形闘技場に連れてこられ、恋する王女の目の前で二者択一を求められます。
幽霊の引越し
−The Transferred Ghost−
  ある日僕は、憧れの女性マドレーヌの叔父ジョン・ヒンクマン氏の幽霊と出会います。二年六ヶ月前、ヒンクマン氏は危篤状態に陥ったことがあり、その幽霊は自分の出番が来たとヒンクマン氏の死を待ち受けていました。ところがヒンクマン氏が一命を取りとめたため、幽霊は出番が無くなり、途方に暮れていたのです。その幽霊は、僕がマドレーヌにプロポーズする場面で再び現れ、僕にちょっかいを出してきます。
−The Spectral Mortgage−
  「幽霊の引越し」の続編。僕は無事にマドレーヌと結婚し、子供も授かって幸せな生活を送っていました。マドレーヌにはベルという妹がおり、僕の友人がベルに求婚をしていました。しかしベルは友人の求めに応じず、僕とマドレーヌはヤキモキした日々を過ごします。ある日、僕はベルが見知らぬ男性を会っているところを目撃します。そして驚くべきことに、その男性は幽霊だったのです。
−Our Archery Club−
  (普通小説)ある村でアーチェリー同好会が結成され、多くの村人がその同好会に参加します。若いペプトンもそのひとりで、高価なアーチェリー道具を揃えていました。ペプトンは熱心にアーチェリーの練習に励みますが、なかなかその腕は上達しません。そんなある日、ペプトンは何かを発見して、これでアーチェリーが上達すると言います。
−That Same Old 'Coon−
  (普通小説)マーチンと釣りの話をしていた私は、これまで体験したことのなかったアライグマの猟に行きたいと言います。するとマーチンは、かつて自分が体験した不思議なアライグマ猟の話を始めます。彼が狙っていたアライグマは、尾に縞が無いことが特徴で、猟犬に立ち向かう獰猛さを有し、その生息していた場所からハンスキンスのアライグマと呼ばれていました。
−His Wife's Deceased Sister−
  (普通小説)作家の私は結婚をしたことで幸せな日々を過ごすようになり、その高揚した気分で小説『彼の妻の死んだ妹』を書き上げ、それがベストセラーになります。私は作家としての自信が付き、すぐに新しい小説を書き上げますが、編集者からはその小説の出版を断られます。新しい作品の出来が、前作『彼の妻の死んだ妹』を超えていないことが理由でした。
−Our Story−
  (普通小説)ある文芸関係者が集まった場で、作家の私はベシーと出会います。ベシーも若手女流作家でしたが、私は彼女の本を読んだことがなく、彼女も私の本を読んだことがありませんでした。その後、私は何度かベシーと会う機会があり、二人はひとつの作品を合作することにします。二人の合作作業は順調に進みますが、ある日ベシーの母親が二人の行動に苦言を呈します。
−Mr. Tolman−
  (普通小説)ある日トルマン氏は会社を事務員に任せて、隣町に旅に出ます。そこでトルマン氏は一軒の店を譲り受けます。その店は文房具を売りながら私設図書館を兼ねた風変わりな店でした。ある男性が一冊の本をずっと借り続けていました。そこへその本を借りたいという女性が現れます。彼女はその本がいつ来ても借出中である理由をトルマン氏に尋ね、トルマン氏はその事情を彼女に説明します。
−On the Training of Parents−
  (教育論)著者が執筆当時とその五十年前の教育論の違いを語った短編。現在からすると、百二十年前と百七十年前の教育論。
−Our Fire-Screen−
  (普通小説)暖炉の火除けの衝立について語られた短編。
−A Piece of Red Calico−
  (普通小説)夫が妻に頼まれて赤いサラサを買いに行くが、それがどの店にも売っておらず、夫が店を転々とする破目になるユーモア話。
−Every Man His Own Letter-Writer−
  (書簡集)著者がネタとして集めたと思われる書簡集。 

『天外消失』早川書房編集部編(ハヤカワミステリ)収録作品
「女か虎か」

『37の短編』(早川書房 世界ミステリ全集18)収録作品
「女か虎か」

『世界ショートショート傑作選2』各務三郎編(講談社文庫)収録作品
「女か虎か」

『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』山口雅也編(角川文庫)収録作品
「女か虎か」

『エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン』1965年1月号収録作品
「幽霊の引っ越し」