クイーンの定員 #013
フライング・スコッツマンの冒険 ジェームズ・ホッグ 1888年 |
James Hogg 1st edition in UK |
「現代の読者は、おそらくこの作品が盗みと殺人未遂をめぐる古風な物語で、いささか偶然にたよりすぎのきらいがあると思うにちがいない。だが、メロドラマティックな危機に陥るヴィクトリア朝時代の登場人物たちは充分に書き込まれている。」
エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)
周回遅れでイーデン・フィルポッツの作品を紹介します。翻訳された『赤毛のレドメイン家』(1922)やハリントン・ヘクスト名義の『誰が駒鳥を殺したか?』(1924)のイメージが強く、イギリス黄金時代に活躍した作家のひとりという認識をしていたのですが、フィルポッツは19世紀ヴィクトリア時代にはすでに多くの作品を残していました。本書は、実在したロンドン&ノースウェスト鉄道の宣伝のためにフィルポッツが書いたとされる犯罪小説で、著者のミステリデビュー作です。初版本はイギリスのJames Hogg社から出版され、アメリカ版はJames Hogg社版が出てから88年も経った1976年に、編集者Tom & Enid Schantzの紹介文付きでAspen Press社から500部限定で出版されました。なお本書には、A Romance of London & North-Western Railway Sharesというサブタイトルが付いています。
収録短編
・ | −My Adventure in the Flying Scotsman− |
主人公ジョン・ロットは父の遺産を受け継ぎ、一度は金持ちになるものの、妻の兄の負債を払うためにその全てを失ってしまいます。ジョンの異父兄弟であるヨシュアは親の金を持ち逃げした罪で服役していましたが、出所後その事実を知り、自分が本来であれば貰えるはずの金までも兄ジョンが失ってしまったことに腹を立てます。その数年後、ジョンの継父、つまりヨシュアの実父の親戚の女性が亡くなり、莫大な財産がジョンとヨシュアに残されることになりました。弁護士の調べでヨシュアは既に死亡しており、相続の権利は全て自分にあると聞いたジョンでしたが、その女性宅でヨシュアらしき姿を見ます。これで再び大金持ちになったと思ったジョンでしたが、その財産の大部分をしめるロンドン&ノースウェスト鉄道の株を弁護士の事務員が持ち逃げしてしまいます。そして再びどん底に落とされたジョンの前に死んだはずのヨシュアが現れます。"A Romance of London & North-Western Railway Shares"と副題が付いている通り、株をめぐる犯罪小説です。殺人が起きたり、探偵が出てきたりするわけではなく、ふたりの兄弟の数奇な人生を描いています。ちなみにフライング・スコッツマンとはロンドン&ノースウェスト鉄道の列車名で、その車内でふたりは偶然再会を果たします。 |
Aspen Press (1976) 1st edition in USA Limited to 500 copies |