クイーンの定員 #022


女探偵ドルカス・ディーン
Dorcas Dene, Detective

ジョージ・R・シムズ
George R. Sims

F・V・ホワイト 1897年
London: F. V. White


Greenhill
Reprint in UK

「初仕事における成功の結果、ドーカスはイギリス最高の女性職業探偵の道を歩むことになった。」

エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)


 ステインブルナー&ペンズラー『Encyclopedia of Mystery & Detection』によると、著者ジョージ・ロバート・シムズは1847年ロンドン生まれの作家で、詩、小説、戯曲、記事など様々なジャンルで筆を取っていたようです。
 本短編集の主人公であるドルカス・ディーンは、かつてドルカス・レスターという名で舞台女優をしていました。残念ながら彼女は無名で、台詞や出番も多くありませんでしたが、演技には目を引くものがあったと言います。ドルカスは画家のポール・ディーンと結婚し、女優を引退して夫や実母とともにセント・ジョンズ・ウッドの家で暮らしていました。ところが夫ポールが病気で失明し、ドルカスは仕事をする必要に迫られます。ドルカスは慣れ親しんだ女優への復帰を考えていましたが、隣家に住む元警視から探偵業の手伝いを頼まれ、以後女性探偵となるのです。ドルカスは一匹のブルドッグを飼っており、難解な謎に当たると夫・実母に犬の一匹を交えて議論を重ねていました。またドルカスは女優だった経験を活かし、様々な人物に変装して事件の現場に潜り込みます。
 本短編集には十一の章がありますが、一つの事件は複数の章から成っており、全部で五つの事件が起こります。事件は全てドルカスが女優だった時に雇用主だった劇作家サクソン氏の一人称で語られます。


収録短編

−The Council of Four−
  (前編)劇作家のサクソンは、かつて自分が雇っていた舞台女優ドルカス・レスターと再会し、彼女が結婚してドルカス・ディーンと名を変え、現在は探偵業を行っていることを知ります。ドルカスは行方不明となっている若きヘルスハム卿の捜索を行っており、ヘルスハム卿を探しだすために舞台にジプシーのひとりとして登場させて欲しいとサクソンに懇願します。
−The Helsham Mystery−
  (後編)ドルカスはヘルスハム卿の恋人らしき女性がサクソンの舞台に出ていることを知り、彼女に近づくために舞台出演を申し出たのでした。その結果、ドルカスは行方不明となっているヘルスハム卿が自殺を図る可能性が高いと結論づけます。そこには彼の出生の秘密が隠されていました。
−The Man with the Wild Eyes−
  (前編)ハーグレイブ大佐の一人娘マウドが近くの池で溺れかけているところを発見されます。当初マウドは眩暈がして自分で池に落ちたと語っていましたが、診察した医師がマウドの首と手首に痣を見つけそれを指摘すると、マウドは不審者に縛られ池に突き落とされことを明かします。事件を明るみに出したくない大佐はドルカスに真相究明を依頼します。
−The Secret of the Lake−
  (後編)ドルカスは池の近くでマウド以外の足跡を発見し、それがマウドを池に突き落とした犯人の足跡だと断定します。またドルカスはマウドの寝言からある人物の名を聞きだし、その人物の正体を探るよう劇作家のサクソンに依頼します。その結果、その人物とマウドの驚くべき関係が明らかになるのでした。
−The Diamond Lizard−
  (前編)チャリントン夫人の大事な宝石が自宅で盗まれ、夫人は金銭に困っていた継息子クラウデを疑います。夫人から事件の調査依頼を受けたドルカスは、女給に化けてチャリントン邸にもぐりこみます。ある日、ドルカスはクラウデが昼食に出かけることを知り、そのレストランで待ち伏せします。すると、ひとりの若い女性が夫人の宝石を身に着けてクラウデの前に現れたのです。
−The Prick of a Pin−
  (後編)劇作家のサクソンはドルカスが訪問を熱望する高級クラブのビジターになるために、その高級クラブの正規会員を探します。一方、ドルカスはチャリントン夫人が宝石を保管していた引き出しを調べ、そこに赤い血の跡を発見します。それは夫人の宝石を盗んだ犯人が残した決定的な証拠でした。
−The Mysterious Millionaire−
  (前編)アンナ・バラクラウ夫人は億万長者の夫に自分以外の妻がいるかもしれないと考え、夫が重婚していないかどうかドルカスに調査を依頼します。ドルカスはバラクラウ氏が日中ひそかに出入りしている建物を見つけ、バラクラウ夫人にその建物に入る鍵を夫が寝ている間に盗むよう指示します。
−The Empty House−
  (中編)ドルカスとサクソンはバラクラウ氏が出入りしていた建物に侵入し、多数の空きボトルを発見します。そして二人は鍵のかかった部屋のなかから体の弱ったひとりの女性を発見します。女性は檻に入れられており、バラクラウ氏によって監禁状態にされていたのでした。
−The Clothes in the Cupboard−
  (後編)ドルカスはスコットランド・ヤードCIDのバートレット警視に通報し、発見された女性の保護と犯人逮捕を依頼します。ドルカスから事情を聞いたバートレット警視は犯人の自供を得るためにある芝居をうちます。
−The Haverstock Hill Murder−
  (前編)ある夜、ハンナフォード夫人が火かき棒で撲殺され、夫のハンナフォード氏が殺人容疑で逮捕されます。事件が起きる直前に、二人が寝室内で喧嘩していたとメイドが証言したことと、ハンナフォード氏が自宅から逃亡してパディントン駅にいたことが彼の逮捕の決め手となりました。誰もがハンナフォード氏の有罪を疑いませんでしたが、ハンナフォード氏の母親だけは別で、ドルカスに独自の調査を依頼したのでした。
−The Brown Bear Lamp−
  (後編)ハンナフォード夫人が殺害された時間にフラッシュ・ジョージというコソ泥棒が近くをうろついていたことが分かっていましたが、ハンナフォード家からは何も盗まれておらず、警察はジョージに関して捜査を続けていませんでした。しかしドルカスは競馬場に出入りしていたジョージがハンナフォード夫人の前夫が引き出した小切手を持っていた事実を突き止めます。