クイーンの定員 #026


二人で泥棒を〜ラッフルズとバニー
The Amateur Cracksman

E・W・ホーナング
Ernest William Hornung

メイスン 1899年
London: Methuen


論創社

クリケットの名手で、特に職につくことも無く過ごしていたA・J・ラッフルズが、学校の後輩であるバニーとともに泥棒稼業に入り込む物語です。遊び感覚で泥棒を行うラッフルズと、その行為に疑問を持つバニーが対照的に描かれています。


収録短編

三月十五日
−The Ides of March−
バカラ賭博で借金を背負ったバニーは、私立学校の先輩だったA・J・ラッフルズを訪ね、金銭の援助を求めます。バニーの話を聞いたラッフルズは自分も金が無いことを白状し、これから二人で金を稼ぎに行こうと提案します。そしてラッフルズたちが向かったのは一軒の宝石店でした。罪の意識に苛まれながら、犯罪の手助けをしてしまうバニーの心の変化に注目です。
衣装のおかげ
(別題:ラッフルズと紫のダイヤ)

−A Costume Piece−
南アフリカでダイヤモンドの鉱脈を見つけて巨万の富みを得たリューベン・ローゼンタールは、ある晩餐会において、身に付けていた緑がかった紫の輝きをもつ大きなダイヤモンドを客人の前で自慢します。それを見たラッフルズはそのダイヤを盗みたいとバニーに明かし、一週間ローゼンタールの家を見張ると言って姿をくらまします。変装がばれた後の行動が圧巻です。
ジェントルメン対プレイヤーズ
−Gentlemen and Players−
クリケットの名手でもあるラッフルズは、アマーステス侯から所領で開くクリケット大会に招待されます。そこで開かれるパーティーに財宝が集まることを予見したラッフルズはこの申し出を二つ返事で受け、バニーと共に所領へ向かいます。ところがこのパーティーには警察官も身分を隠して参加していることが判明し、バニーはラッフルズに泥棒の中止を求めます。別の盗賊を登場させ、クリケットのゲームをするかのように泥棒合戦を繰り広げさせる展開が素晴らしいです。
ラッフルズ、最初の事件
−Le Premier Pas−
クリケットの選手としてメルボルンを訪れていたラッフルズは、親戚と思われる男性がナショナル銀行の支店長に就任したと聞いて、彼から金銭的援助を求めようと、その支店を訪れます。ところがラッフルズが銀行に着くと親戚の男性はまだ到着していなかったようで、管理人の男はラッフルズが支店長と誤解して銀行の内部事情を説明し始めます。金が欲しかったラッフルズは、深夜一人で金庫に入り、持てるだけの現金を盗んで逃亡しようと企てます。ラッフルズが初めて犯した犯罪として過去を振り返りながら語る回想録です。その冒険譚が痛快です。
意図的な殺人
−Wilful Murder−
ラッフルズはアンガス・ベアードという男のもとを訪れ、盗んで得た戦利品を五百ポンドの現金に変えてもらいますが、その帰り道をベアードにつけられてしまいます。さらにラッフルズは、ジャック・ラッターという男がベアードから厳しく借金を取り立てられていることを哀れみ、ついにはベアード殺害を計画します。ゲーム感覚で、突然殺人を計画するラッフルズの気持ちがどうにも理解できません。
合法と非合法の境目
−Nine Points of the Law−
ラッフルズとバニーは新聞に書かれた「危険で、デリケートな仕事をすれば、賞金二千ポンドを差し上げます!」という広告に興味を引かれ、早速応募をします。直ぐに依頼主の弁護士から連絡があり、ディーベンハム卿が所有していた絵を取り返して欲しいと依頼してきます。値段が付けられないほど高価なその絵を卿の息子が金欲しさに五千ポンドで売ってしまったそうで、それを知った卿が慌てて絵を取り戻そうとしましたが、買い主もその価値を知って返却を拒んでいると言うのです。結局取り戻す唯一の手段は盗むことしかありませんでした。犯行中にバニーを焦らすことが、おもしろさの秘訣のようです。
リターン・マッチ
−The Return Match−
ロンドン随一の泥棒といわれるクローシェイという男がダートムアの刑務所から脱獄します。ラッフルズはクローシェイがロンドンに現われ、自分に会いに来ると考えていました。ラッフルズがそのことをバニーに伝えていると、クローシェイ本人がいつのまにかラッフルズの部屋に入り込んできていたのです。クローシェイはラッフルズに自分をヨーロッパから脱出するのを助けて欲しいと頼み、ラッフルズはそのことを承知します。その時、アパートの外ではマッケンジー警部がクローシェイを追っていました。ラッフルズは敵を欺くため、まずは味方を欺きます。
皇帝への贈り物
−The Gift of the Emperor−
ポリネシア諸島の王様が大英帝国の皇帝に高価な真珠をプレゼントしたというニュースがイギリス中を駆け回ります。その真珠を預かっている王様の特使がサザンプトン港を出る船に乗ることを突き止めたラッフルズは、バニーと共にその船に乗船し、真珠を盗む計画を立てます。著者ホーナングはコナン・ドイルの妹と結婚していますが、その義兄が創作したシャーロック・ホームズと似たような結末をラッフルズ譚は迎えます。

『クイーンの定員T』(1992)各務三郎編(光文社文庫)収録作品
「ラッフルズと紫のダイヤ」