クイーンの定員 #027


七王国
The Brotherhood of the Seven Kings

L・T・ミード&ロバート・ユースタス
L. T. Meade and Robert Eustace

ウォード、ロック 1899年
London: Ward, Lock


Ward Lock
1st edition

「ここに威風堂々と登場したマダム・コルチーは、連作短編小説に現われた女性重罪犯の草分けといえる。」

エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)


 前回のジョルジュ・シムノンに引き続き、L・T・ミード女史も『クイーンの定員』に二冊取り上げられている作家です。一冊目はクリフォード・ハリファックス博士との共著Stories from the Diary of a Doctor(1894)であり、二冊目がロバート・ユースタスとの共著である本書です。
 本書に収録された短編は一八九八年一月から十月までストランド誌に連載されたものであり(シドニー・パジェットの挿絵付き!)、女性首魁マダム・コルチーと若き科学者ノーマン・ヘッドとの対決を描いたシリーズ物になっています。
 マダム・コルチー(右図の女性)は悩める人々の相談相手としてロンドン中から崇められていましたが、実際は「七王国」と呼ばれる秘密結社の首謀者であり、詐欺や強盗など数々の事件を裏で操っていました。ノーマン・ヘッドはかつて「七王国」に所属していたものの、その悪事から目覚め、現在は弁護士コリン・ダフレイヤーと共にマダム・コルチーの逮捕に全力を尽くしています。寸前でマダム・コルチーを取り逃がすことが多かった二人ですが、徐々に彼女を追い詰めてゆき、遂に直接対決をするに至ります。なおこの荒筋を押川曠氏が『シャーロック・ホームズのライヴァルたちA』の解説で書かれていますが、結末のネタバレをしているのでご注意ください。


収録短編

小説秘密結社
(別題:秘密結社七王社)
−At The Edge of the Crater−
ケニオン夫人は旧友ノーマン・ヘッドを訪れ、一人息子のセシルが最近カーン卿の地位と莫大な資産を継承したため、カーン卿の次期継承権を持つヒュー・ドンカスターという男から恨まれていることを相談します。また、セシルがマダム・コルチーという女性の介護下にあり、彼女の勧めでセシルが医師とともにカイロまでの船旅に出かけることも明かします。その夜、ノーマンはドンカスターと話すマダム・コルチーを見かけ、マダム・コルチーがかつて自分も属していた「七王国」の首謀者であることに気付きます。ノーマンはセシルが危険にさらされていると察し、カイロまでの船旅に同行して、「七王国」の悪巧みを暴こうとします。
−The Winged Assassin−
アリソン・カーは奇妙な父の遺言により、父の遺産である十万ポンドを相続するためには、結婚相手からも十万ポンドを譲り受けなければなりませんでした。もしその条件が満たされなければ、遺産は全てアリソンの叔父に行くことになっていたのです。アリソンの婚約者であるフランク・カルソープは事業で大変な損失を被り、結婚資金である十万ポンドを競馬のダービーで取り返そうとしていました。フランクの叔父は名馬を所有しており、フランクはその馬に全てを託していたのです。馬は完璧な状態に仕上がっており、負ける気配が全くありませんでした。ところがダービーの数日前、マダム・コルチーがその馬と接触しており、ノーマンは「七王国」が何か企んでいると考えます。この事件をきっかけに、ノーマンは友人の弁護士コリン・ダフレイヤーと共に、マダム・コルチーを裁きにかけるため全力を尽くすことになります。
−The Swing of the Pendulum−
ノーマンは銀行を経営する友人デ・ブレットの一人娘ジェラルダインがフリーデッキ公爵と婚約したことを知り大いに喜びますが、二人を仲介したのがマダム・コルチーと聞き、逆に不安が募ります。弁護士ダフレイヤーの調べでフリーデッキ公爵はマダム・コルチーの右腕あることが判り、二人がデ・ブレットに対して何か企んでいることは明らかでした。ある日、ノーマンはデ・ブレットから呼ばれて銀行を訪れますが、あいにくデ・ブレットは急用で外出しており、彼が帰るまで待つことにします。そこへデ・ブレットから手紙が届き、銀行の金庫の鍵を持って彼の待つ場所へ来るよう依頼されます。そして、ノーマンは銀行を出た途端、何者かに殴られ、そのまま気を失ってしまうのです。
−The Luck of Pitsey Hall−
閣僚の一人であるデラクーア氏が背後から何者かに刺されて死亡します。デラクーア夫人は大変なショックを受け、マダム・コルチーが毎日付き添って夫人の看病に当たっていました。一方、デラクーア家の親戚にあたるピッゼイ家には代々伝わるゴブレットがあり、マダム・コルチーがそのゴブレットに大変な興味を抱いていることをノーマンは知らされます。またノーマンはそのゴブレットに七つの王冠がデザインされていることに気付くのです。マダム・コルチーがそのゴブレットを狙っていることは間違いなく、ノーマンはピッゼイに対してゴブレットに最大限の監視を付けるよう忠告します。
−Twenty Degrees−
弁護士ダフレイヤーは旅先で一人の男性に声をかけられ、「危険なのでロンドンに戻るな」という忠告を受けます。ダフレイヤーは大事な裁判を控えていたため、この忠告を無視してロンドンに戻り仕事をしていると、その声をかけられた男から今度は手紙で面会を求められます。しかしダフレイヤーは全く信じず、その面会も無視することにしました。するとある深夜、エルシー・ファンコートと名乗る女性がノーマンを訪れ、ダフレイヤーに忠告していたのは自分で、ダフレイヤーはマダム・コルチーに狙われていると告げるのです。後日、ファンコートの自宅を訪れたノーマンは、ダフレイヤーが最近仕事で雇った男がマダム・コルチーの手下だという事実を彼女から明かされます。
−The Star-Shaped Marks−
ノーマンとダフレイヤーは画家ロフタス・ダーハムに招かれ、彼の自宅を訪れます。そこには彼が描いた等身大の女性の絵が飾られており、モデルとなったフォルクナー夫人も同席していました。ダーハムには亡くなった妻との間にできた幼い一人息子がおり、偶然にもフォルクナー夫人の息子とそっくりでした。数日後、そのダーハムの一人息子が突然行方不明となり、ダーハムは気も狂わんばかりの状態になります。ダフレイヤーはフォルクナー夫人がマダム・コルチーと会話していた場に居合わせており、フィルクナー夫人がこの事件に関わっているのではないかと考えます。
−The Iron Circlet−
細菌学者求むという記事が新聞に載り、ノーマンとダフレイヤーは広告主がマダム・コルチーではないかと考えます。有名な細菌学者ジェームス・ロックハートがそれに応募したことをノーマン達は知り、早速彼の研究室を訪れます。ロックハートはマダム・コルチーと会ったことは認めたものの、彼女の言動に不自然な点は無かったと言い、今後マダム・コルチーから指示があった場合はすぐにノーマンに伝えることを約束します。そして数日後、ロックハートはマダム・コルチーからハンプシャーへ向かうよう指示を受けたことをノーマンに明かし、ノーマンはこっそりとロックハートに同行することにします。
金庫室の怪
−The Mystery of the Strong Room−
ダイヤ商のマイケル・ローデンが所有していた八十二カラットの大ダイヤモンドが、いつの間にか偽物とすり替えられるという事件が発生します。ローデンの金庫室は、その錠の中へどんな鍵を差し込んでも電気によってベルが鳴り出すという仕掛けが施されており、大ダイヤモンドはその金庫に保管していたにもかかわらず、ベルが鳴らずに盗まれてしまったのです。そのローデン家にノーマンとダフレイヤーは招待され、二人はマダム・コルチーも招かれていると聞いて全面対決の姿勢で臨みます。そこでノーマンはマダム・コルチーの悪巧みによって大ダイヤモンドが盗まれたことを知ります。
−The Bloodhound−
ついにマダム・コルチーの逮捕状を手にした警察は彼女の住む屋敷に突入します。しかし、マダム・コルチーの姿はどこにも無く、彼女を逮捕するに至りませんでした。警察は若くて有能な女性警察官ミス・ベリンジャーを捜査に当たらせ、彼女の活躍でマダム・コルチーが船で逃亡しようとしているとの情報を得ます。その結果、警察はマダム・コルチーの手下を逮捕することができ、マダム・コルチーに偽の情報を流して彼女の逮捕を試みます。
−The Doom−
ノーマンとダフレイヤーはクリスマス休暇を過ごすためにシアーウッド牧師の家を訪れます。シアーウッド家には毎年クリスマスになると女性の幽霊が出るという言い伝えがあり、どこかに秘密の通路があるとも噂されていました。シアーウッド牧師の娘ロザリーはその幽霊を見たことがあり、クリスマスが近づくにつれロザリーの神経が高ぶっていました。そして、クリスマスの夜、ロザリーの悲鳴が屋敷中に響き渡ったのです。

『反省雑誌98-10』杉村楚人冠訳収録作品
「小説秘密結社」

『楚人冠全集第7巻』(1937)(日本評論社)収録作品
「秘密結社七王社」

『シャーロック・ホームズのライヴァルたちA』(1983)押川曠編(ハヤカワミステリ文庫)収録作品
「金庫室の怪」