クイーンの定員 #048


アヴェレッジ・ジョーンズ
Average Jones

サミュエル・ホプキンス・アダムズ
Samuel Hopkins Adams

ボッブズ−メリル 1911年
Indianapolis: Bobbs-Merrill


Bobbs-Merrill
1st edition

「一九一一年にはブラウンという名の一等星が、そして同じ年、まったくの偶然だが、ジョーンズという名のより輝きの薄い星――すなわち、アドリアン・ヴァン・ライペン・エガートン・ジョーンズが登場した。」

エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)


 Steinbrunner & PenzlerのEncyclopedia of Mystery & Detectionによると、著者サミュエル・ホプキンス・アダムズは、一八七一年ニューヨーク生まれのジャーナリストで、作家活動を続けながら医療関係の記事を新聞や雑誌に投稿していたそうです。書いたミステリの数は多くなく、共著を含めた長編が三作に、アヴェレッジ・ジョーンズ物以外の短編が数作あるのみで、短編はいくつか翻訳されています。最近では、『密室殺人コレクション』(原書房)に「飛んできた死」が収録されています。これは足跡のない殺人を扱った短編で、Robert AdeyのLocked Room Murdersでも言及されています。
 本書の探偵役アヴェレッジ・ジョーンズは本名をAdrian Van Reypen Egerton Jonesといい、その頭文字をとってAverage Jonesと呼ばれています。まだ二十七歳ながら毎日の生活に飽きてきたジョーンズは、ある日所属するクラブの仲間から、広告専門のアドバイザーになってはどうかと薦められます。広告のAdvertiseとAdvisorをかけてAd-Visorと銘打ったその職業を気に入ったジョーンズは、広告を介して様々な事件と関わっていきます。


収録短編

−The B-Flat Trombone−
市長選に出馬を表明した男が三階にあるオフィスの窓際でくつろいでいると、外からトロンボーンの音色が聞こえてきます。男は不快な音に腹が立って演奏者に立ち去るよう命じますが、演奏者は再びトロンボーンを弾きだします。するとその時、男の座っていた椅子が爆発し、男は窓から投げ出されたのです。
−Red Dot−
ある日の新聞に「愛犬を殺した犯人に関する情報の提供者には千ドル」という広告が載り、興味をもったアヴェレッジ・ジョーンズは広告主の男性を訪ねます。その男性によると、男性が数分間部屋を離れている間に、部屋で飼っていた愛犬の様子がおかしくなり、その後間もなくして死亡したというのです。男性は部屋に鍵をかけて離れており、その間、誰も部屋に侵入することはできませんでした。
−Open Trail−
大金持ちの医者の息子が行方不明となり、五千ドルの賞金がかけられます。血痕が付着した息子のシャツと手紙が医者宛に送り付けられており、医者は息子が殺されたものと信じます。しかしアヴェレッジ・ジョーンズは、息子はまだ生存しており、どこかに連れ去られただけと考え、その行方を追います。
−The Mercy Sign - Part T&U−
大学教授のもとで働いていた助手が行方不明となり、教授はアヴェレッジ・ジョーンズに助けを求めてきます。教授の話を聞いたジョーンズは、数週間前に掲載された「野外での科学的作業を手伝ってくれる若い男性募集」という広告と助手失踪の関連を指摘します。
−Blue Fires−
鉱山で働いていた男が、青く光る宝石”Blue Fires”で出来たネックレスを婚約者に贈ります。しかし、婚約者がホテルの一室で寝ている間に、そのネックレスが何者かによって盗まれてしまいます。ネックレスと一緒にあった財布から現金は盗まれておらず、犯人はネックレス自体が目的と推測されました。調査依頼を受けたアヴェレッジ・ジョーンズは、婚約者が泊まっていたホテル周辺で働く牛乳配達員に広告を出します。
−Pin Pricks−
一人の男性がアヴェレッジ・ジョーンズに手紙で助言を求めてくるのですが、その男性は依頼の手紙に暗号を隠しており、ジョーンズはその行為に興味を抱きます。男性は何者かによって脅迫され、死に追い詰められていました。ジョーンズは男性が受け取った手紙の特徴から真相を導き出します。
−Big Print−
村で火事が起きたある夜、一人の少年が行方不明となり、五万ドルの身代金が要求されます。後日、少年が着ていた衣服が発見され、少年の父親は息子の安否を気遣いますが、アヴェレッジ・ジョーンズは身代金要求を無視して構わないと答えます。そして、ジョーンズは少年の衣服のポケットに入っていた奇妙な文字の並んだ紙に興味を抱きます。
−The Man Who Spoke Latin−
ラテン語しか話すことができない奇妙な男の話が広告に載り、アヴェレッジ・ジョーンズは早速その男に会いに行きます。紀元前からやって来たようなその男はラテン語学者に雇われており、その男を探るためにジョーンズはラテン語学者の家を毎日訪れるようになります。そんなある日、ジョーンズはラテン語しか話せない男が英字新聞を慌てて隠す姿を目撃します。
−The One Best Bet−
一人の男が新聞社に駆け込み、金はいくらでも出すので翌朝の新聞に載る広告を削除するよう求めます。印刷までの時間があまり無いことを理由に申し出を断られ、男は新聞社を後にしますが、その十五分後には死体となって発見されます。男が削除を求めた広告とは、知事の暗殺をほのめかすものでした。
−The Million Dollar Dog−
一万匹のカブトムシを求める奇妙な広告が掲載されます。広告主は名の知れた悪党で、数年前まで牢獄にいた人物でした。その悪党の妻には姪がおり、その姪は祖母から百万ドルの遺産を条件付で相続することになっていました。その条件とは、飼い犬を大事にし、犬が死んだ際にはきちんと墓に埋葬するというもので、その条件が破られた場合は、遺産の大半は悪党の妻が相続することになっていました。