クイーンの定員 #051


ソープ・ヘイズルの事件簿
Thrilling Stories of the Railway

ヴィクター・L(ロレンゾ)・ホワイトチャーチ
Victor L. Whitechurch

C・アーサー・ピアスン 1912年
London: C. Arthur Pearson


Routledge & Kegan Paul
Reprint in UK

 二十世紀初頭のイギリス鉄道にまつわる話を集めた短編集。書籍収集家であり鉄道愛好家であるソープ・ヘイズルが列車に関する事件を解き明かす九編と、特定の探偵が登場しない六編が収められている。


収録短編

ピーター・クレーンの葉巻
−Peter Crane's Cigars−
  煙草屋を営むハリー・ブレッドは最近売上が減っていることに悩んでいた。ピーター・クレーンという男が同じ町で煙草屋を開業し、通常価格より安く煙草を販売していたのだ。この話をハリーから聞いた鉄道愛好家のソープ・ヘイズルは、クレーンが煙草を密輸していると考え、彼を尾行し始める。
ロンドン・アンド・ミッド」ノーザン鉄道の惨劇
(別題:ロンドン中北鉄道の惨劇)

−The Tragedy on the London and Mid-Northern−
  ロンドン発の急行列車がマニングフォード駅に進入した際、列車の窓から乗客が身を乗り出している姿が認められた。その乗客は頭と首に傷を負っており、列車がホームに着いた時には全て絶命していた。
側廊列車の事件
−The Affair of the Corridor Express−
  学校教師のウィングレイヴは百万長者カー=メイザーズから息子をロンドンに連れて来るよう依頼され、息子と共に列車でロンドンに向かっていた。ところがその車内で息子が行方不明となる。ウィングレイヴは車掌とともに全ての客室を探したが、息子の姿を見つけることはできなかった。
サー・ギルバート・マレルの絵
(別題:ギルバート・マレル卿の絵

−Sir Gilbert Murell's Picture−
  走行中の貨物列車から貨車一台が消え去るという事件が発生する。消え去った貨車には展覧会に出展を予定していた高価な絵画が三点積まれていた。間もなく貨車は側線で発見され、絵画も無事であることが確認された。何故、貨車は外されなければならなかったのか?
いかにして銀行は救われたか
−How the Bank Was Saved−
  クロスビー・ペンフォールド・アンド・カンパニー銀行は億万長者のピーター・キンチから二十万ポンドを預かっていた。銀行経営者はその金を株に投資していたが、ある日キンチが全額払い戻ししたいと言いだす。銀行側は別の銀行から現金を調達する必要ができ、出納係が現金を列車で運ぶことになった。
ドイツ公文書箱事件
(別題:ドイツ大使館文書送達箱事件)
(別題:ドイツ外交文書箱事件)

−The Affair of the German Dispatch-Box−
  イギリス外務省の重要文書が盗まれ、その文書がドイツ大使館の使者によってベルリンに届けられようとしていた。英外務次官のコットレルは同窓生のヘイルズを訪れ、文書を奪い返す方法を考えて欲しいと懇願する。
主教の約束
−How the Bishop Kept His Appointment−
  フラッテンベリー主教が乗った列車が脱線し、主教は車外に放り出される。主教は講演のためにレッドミンスターの街へ向かっており、何とかしてレッドミンスターに向かう手段を用意するよう車掌に求めていた。
先行機関車の危機
−The Adventure of the Pilot Engine−
  フランスのフォン・ネグレイン伯爵が体調を崩し、イギリスで静養することになった。伯爵が英首相と面会することを避けたいグループが伯爵をどこかで足止めしようと考えるが、伯爵が乗る列車は特別列車で鉄道会社によって極秘に運行計画が立てられていた。
盗まれたネックレース
−The Stolen Necklace−
  ひとりの若い娘がヘイズルを訪れ、無断で借用した伯母のダイヤモンドのネックレースを紛失したので探して欲しいと言う。娘は舞踏会の帰りの列車のなかでネックレースを紛失しており、同じ車室に座っていた男性を疑っていた。
臨港列車の謎
−The Mystery of the Boat Express−
  ひとりの男が臨港列車の二等客室に駆け込み乗車し、車掌にドアの鍵をかけさせる。列車が終着駅に着いても男が降車しないので車掌がドアを開けると、男は頭から血を流して死亡していた。客室に拳銃が落ちていたが、銃弾は発射されていなかった。
急行列車を救え
−How the Express Was Saved−
  ミッドノーザン鉄道の線路工夫たちが賃上げを理由にストライキを実行するが、会社側は話し合いに応ぜず、ストライキの首謀者を解雇する強攻策と取った。これに反発した首謀者は橋の手前のレールを外して、総支配人が乗った列車を川に転落させようとする。
鉄道員の恋人
−A Case of Signalling−
  機関助手のジム・レッドベリーは列車の運行中に恋人マギーとハンカチを使ったモールス信号で連絡を取り合っていた。ある日、マギーが働く元少佐の家に泥棒が入り、マギーは縄で縛られる。そこでマギーはモールス信号を使ってジムに強盗が入ったことを知らせようとした。
時間との戦い
−Winning the Race−
  フランス大使のムッシュー・ドゥ・クルセルはロンドンのフランス大使館で青ざめていた。パリからの使者が条約書を持ってロンドンに着くことになっていたが、その前にベルリンからの使者が早くロンドンに着くという情報が入ったのだ。大使は鉄道に詳しい男を呼んで、走行中の列車の順番を入れ替えることができないか検討させる。
ストの顛末
−The Strikers−
  ノースベリーの町で鋳物労働者たちがストライキを起こし、軍隊が列車に乗って鎮圧に向かおうとしていた。労働者たちはそれを阻止するため、鉱物列車を軍隊の列車に衝突させようとした。
策略の成功
(別題:奸計)

−The Ruse That Succeeded−
  外務省のシブソープ大佐はロシアの犯罪容疑者コラヴィッチをフランスに行かせたかった。しかしロシア警察がそれを阻もうとしており、大佐はある諜報員にコラヴィッチを無事に逃亡させるための協力を依頼する。


論創社
『ソープ・ヘイズルの事件簿』(2013)小池滋+白須清美訳(論創社)収録作品
全編

『世界鉄道推理傑作選1』(1979)小池滋訳(講談社文庫)収録作品
「ロンドン中北鉄道の惨劇」「盗まれたネックレース」

『世界短編傑作集2』(1961)江戸川乱歩編(創元推理文庫)収録作品
「ギルバート・マレル卿の絵」

『クイーンの定員U』(1992)各務三郎編(光文社文庫)収録作品
「ドイツ大使館文書送達箱事件」

『シャーロック・ホームズのライヴァルたち@』(1983)押川曠編(ハヤカワミステリ文庫)収録作品
「ドイツ外交文書箱事件」