クイーンの定員 #064


骨董屋探偵の事件簿
The Dream-Detective

サックス・ローマー
Sax Rohmer

ジャロルズ 1920年
London: Jarrolds


創元推理文庫

 ウォッピングの袋小路の奥にある摩訶不思議な骨董店を営むモリス・クロウ。山高帽をかぶり、金縁の鼻眼鏡をかけ、黒い絹のスカーフを巻き、黒い外套で猫背を覆ったその男は、犯罪は周期的に起き、思念は実体と考えた。そして彼は事件現場で眠り、夢のなかで被害者らの心象風景を再現させることで事件の真相を解き明かした。


収録短編

ギリシャの間の悲劇
(別題:ギリシャ宝の惨劇)

−Case of the Tragedies in the Greek Room−
  博物館の夜警が館内で殺害される。被害者は監視員用の椅子のそばに倒れており、首の骨が折れていた。発見当時、館内は全て鍵がかかっており、完全な密室状態だった。展示物が盗難にあった形跡は無く、博物館の至宝のひとつである黄金の竪琴が飾られているガラスケースの上蓋だけが開いていた。
アヌビスの陶片
−Case of the Potsherd of Anubis−
  古物研究家のヘイルスオーウェンは、エジプトで発掘されたアヌビス神の像が描かれた陶片をシェラトン教授のテントから盗み出し、自宅のコレクションに加えていた。その秘密を他人に明かしたヘイルスオーウェンは何者かが陶片を狙っていると感じるようになる。
十字軍の斧
(別題:十字軍戦士の斧)
−Case of the Crusader's Axe−
  亡きリチャード・クレスピー卿の邸宅を購入したのは性格の悪さが評判のハイデルバーガー氏だった。そのハイデルバーガー氏が自室で血まみれになって死んでいるのが発見される。近くには怪力の持ち主でなければ使いこなせないような巨大な戦闘用斧が落ちていた。
象牙の彫像
−Case of the Ivory Statue−
  彫刻家ロジャー・パクストンが作成した女性像が盗まれる。パクストンが庭に出ていた三十秒ほどの間に、アトリエに置かれていた像が消え去った。屋敷の外には巡査が見張っており、巡査は誰も外に出ていないと証言していた。
ブルー・ラジャ
−Case of the Blue Rajah−
  ロンドン市は国王陛下にブルー・ラジャと呼ばれるダイヤモンドを寄贈する決定を下す。そしてロンドン市が前所有者から正式にブルー・ラジャを受け取る場で、ブルー・ラジャが盗難に合う。
囁くポプラ
(別題:囁くポプラの謎)
−Case of the Whispering Poplars−
  モリス・クロウが訪れた屋敷は、かつて不審な死が連続したことから幽霊屋敷と呼ばれ、特定の部屋で囁き声が聞こえると噂されていた。その屋敷でオトリーという名の探偵が何者かに銃で撃たれる。
ト短調の和音
−Case of the Chrod in G
  肖像画家パイク・ウェブリーが首を絞められ殺害される。被害者の首には犯人の指が食い込んだ痕が残っており、腕力のある人物の犯行と考えられた。
頭のないミイラ
−Case of the Headless Mummies−
  博物館に何者かが侵入し、ミイラの頭部を切断するという事件が発生する。盗まれた物はなく、犯人が何の目的でミイラの頭部を切断したかは不明だった。さらにサザビーズのオークションルームでもミイラの頭部が切断される。
グレンジ館の呪い
−Case of the Haunting of Grange−
  かつて灰色の衣を着た修道士の幽霊が現れると噂されたグレンジ館で再び奇妙な出来事が起きる。毎晩、大広間で悪鬼のような哄笑が響き渡るのだった。
イシスのヴェール
−Case of the Veil of Isis−
  ひとりのエジプト学者がミイラと一緒に保存されていたパピルスの古文書を解き明かす。その古文書は秘密の儀式の詳細な覚え書であり、学者は現代でその儀式を再現しようとする。

「ト短調の和音」は原書Jarrolds版には未収録


『骨董屋探偵の事件簿』(2013)近藤麻里子訳(創元推理文庫)収録作品
全編

『ハヤカワ・ミステリマガジン69年9月号』(1969)(早川書房)収録作品
「ギリシャ宝の惨劇」

『ハヤカワ・ミステリマガジン70年11月号』(1970)(早川書房)収録作品
「十字軍戦士の斧」

『ハヤカワ・ミステリマガジン70年7月号』(1970)(早川書房)収録作品
「囁くポプラの謎」