クイーンの定員 #073a


蒼白いナイトガウン
Pale Blue Nightgown

ルイス・ゴールディング
Louis Golding

コーヴィナス・プレス 1936年
London: Corvinus Press


 私家版として64部だけが刷られ、そのうち60部が通し番号及び著者サイン入りで発売されたゴールディングの稀覯本です。たった1編の短編しか収録されていませんが、八つ折り判のハードカバーに仕上がっています。


収録短編
−Pale Blue Nightgown−
背が高く痩せていたドファーティ氏は子供の頃から「街灯柱」というあだ名で呼ばれていましたが、本人はその名をひどく嫌っていました。教師になり学校長まで務めるようになったドファーティ氏は東洋が大好きで、校長室を自ら聖所と呼んでカーテンやクッションから灰皿などの備品に至るまで東洋の物で埋め尽くしていました。ある日ドファーティ氏は放課後の校庭で男子生徒達が集まっているのに気付きます。輪の中心に居座ってしゃべっていたのはアルバート・ヒューイットという自分の嫌いな生徒で、他の生徒は彼の話を楽しそうに聞いていました。「街灯柱」という言葉が漏れ聞こえてきたことから彼らの話題が自分であることに気付いたドファーティ氏は、こっそりと輪に近づきアルバートを背後から捕まえます。ドファーティ氏は何を話していたかアルバートに問いただしますが、アルバートは答えようとしません。しかしドファーティ氏が聖所に連れ込んでムチ打つぞと脅すと、アルバートは自分が見た夢についてしぶしぶと語り始めます。
著者あとがきによると、本作品のもとネタは著者自身が実際に見た夢だそうで、著者がこれまで創作してきたどの作品よりも驚きの結末を持っていると語っています。事実、この結末は予想しませんでした。本作品は「クイーンの定員」のなかで殺人を扱っていると書かれていますがそれは間違いで、殺人は最後まで起きません。殺人とは別の形で意外な夢の結末が待っているのです。なお発売されなかった残りの4部ですが、AとBと字が振られたものにはウィンチモア・ブルー紙が、Cと振られたものには茶色い和紙が使われているそうで、Dと振られた最後の1部は著者あとがきが生原稿になっているそうです。