クイーンの定員 #076


ピーター卿、死体を観察する
Lord Peter Views the Body

ドロシー・L(リー)・セイヤーズ
Dorothy Leigh Sayers

ヴィクター・ゴランツ 1928年
London: Victor Gollancz


Gollancz 1st edition
(Facsimile Dust Jacket)

ピーター・ウィムジイ卿物だけを集めたセイヤーズ初の短編集で、どの短編にも長いタイトルがついています。


収録短編
銅の指を持つ男の悲惨な話
(別題:銅指男)
−The Abominable History of the Man with Copper Fingers−
《エゴティスト・クラブ》を訪れていた映画俳優のヴァーデンが奇妙な彫刻家の話を始めます。その彫刻家ロウダーは愛人マリアをモデルに彫像を造っていましたが、マリアの左足の第二指が短いという特徴は彫像には反映していませんでした。しかし、ヴァーデンが従軍後に再びロウダーを訪れて見た新しいマリアの彫像は本人通りに指が短くなっていました。
文法の問題
−The Entertaining Episode of the Article in Question−
パリに滞在していたピーター卿は、駅構内で言い争う若い男女に遭遇します。ピーター卿は執事のバンターに二人の写真を撮らせ、その女性がメドウェイ公爵の屋敷に雇われたことを調べ上げます。ピーター卿はメドウェイ公爵夫人に電話をし、公爵夫妻の娘が二週間後に結婚することを知ります。
因業じじいの遺言
−The Fascinating Problem of Uncle Meleager's Will−
メリエイガー・フィンチという金持ちが遺言書を隠して亡くなります。もしその隠された遺言書が発見されなければ、その前に書かれた遺言書が効力を持つことになり、財産の全てが政治団体に寄付されることになっていました。遺族から遺言書探しを依頼されたピーター卿は、メリエイガーが作ったクロスワードパズルにヒントが隠されていると考えます。
鞄の中の猫
−The Fantastic Horror of the Cat in the Bag−
グレート・ノース街道を二台のバイクが猛スピードで走り抜けます。巡査がそれを見つけ運転手の二人に事情を聞くと、後を走っていたバイクの運転手は前のバイクが鞄を落としたのでそれを届けようと追いかけていたと言います。前を走っていたバイクの運転手はそんな鞄は知らないと言います。そしてその鞄の中から女性の頭部が発見されるのです。
ジョーカーの使い道
−The Unprincipled Affair of the Practical Joker−
ダイヤモンド商の妻が夫から贈られたダイヤのネックレスを紛失しピーター卿に相談しに来ます。その妻は犯人は判っているが警察沙汰にはしたくないと言います。それはネックレスと同時に浮気相手の写真も盗まれたからであり、自分が原因で相手に辛い思いをさせたくないと考えたからでした。
不和の種、小さな村のメロドラマ
−The Undignified Melodrama of the Bone of Contention−
村の大地主だったバートック老人がアメリカで死亡し、遺体が村に到着次第、村では盛大な葬儀が執り行われようとしていました。ある夜、村の住人のひとりが死の馬車を見たと言います。その馬車は首のない馭者が首のない四頭の馬をあやつっており、地上から半フィート上を音も立てずに走っていたと言うのです。村を訪れていたピーター卿も同じ死の馬車を目撃し、バートック老人の死と何らかの関係があると考えます。
逃げる足音
−The Vindictive Story of the Footsteps That Ran−
ピーター卿がハートマン医師宅を訪れ実験の手伝いをしていると、上の階に住むブラザートンという男性がハートマン医師の部屋に駆け込んできます。たったいま、何者かが侵入してブラザートンの妻を刺して逃げたと言うのです。ハートマン医師とピーター卿が上階に出向くと、ブラザートンの妻は胸を刺されて死亡していました。
趣味の問題
(別題:二人のピーター卿、二人のウィムジイ卿)
−The The Bibulous Business of a Matter of Taste−
パリ発エヴルー行きの急行列車に乗っていたピーター卿をこっそりつける男がいました。その後、ヴェルヌイユに住むリュイエ伯爵のもとをピーター・ウィムジイ卿を名乗る人物が二人同時に訪れます。どちらが本物か判らないリュイエ伯爵はワインを出してその銘柄を当てさせるテストをします。
龍頭の秘密の学究的解明
−The Learned Adventure of the Dragon's Head−
十歳になったピーター卿の甥ガーキンズは古書店で一冊の本を購入します。それはコニヤーズ博士が売却した蔵書の一冊で、怪物の挿絵が入ったものでした。その直後、コニヤーズ博士の甥を名乗る男性がピーター卿を訪れ、ガーキンズが買った本を買い戻したいと申し出ます。
盗まれた胃袋
−The Piscatorial Farce of the Stolen Stomach−
九十五歳で亡くなったジョゼフ・ファーガソンが遺産としたものは彼の胃袋でした。強い消化力こそ人類のもっとも貴重な財産だというのがファーガソンの持論だったのです。遺産を相続したトマス・マクファーソンはその胃袋をガラス容器に入れ自宅に保存していましたが、ある日その胃袋が盗難にあいます。
顔のない男
−The Unsolved Puzzle of the Man with No Face−
イースト・フェルパムという寂れた海岸で男性の絞殺死体が発見されます。顔はめちゃめちゃにされており、着ている服は水着だけでした。現場には被害者の足跡しか残っておらず、海岸まで来るときに使ったと思われる車もありませんでした。後日、被害者は広告代理店に勤めるプラントという男性と判明します。
アリ・ババの呪文
−The Adventurous Exploit of the Cave of Ali Baba−
従僕風の男が一軒の酒場に入り、ジュークスと呼ばれる男に近づきます。するとジュークスはその男に組織に関する話を始めます。第一号と呼ばれる人物を頂点としたその組織は数々の強盗事件に関与しており、警察ですらその実体を掴めていませんでした。ジュークスは従僕風の男をその組織に勧誘していたのです。



創元推理文庫
『ピーター卿の事件簿』(1979)宇野利泰訳(創元推理文庫)収録作品
「盗まれた胃袋」「銅の指を持つ男の悲惨な話」「不和の種、小さな村のメロドラマ」

『顔のない男』(2001)宮脇孝雄訳(創元推理文庫)収録作品
「顔のない男」「因業じじいの遺言」「ジョーカーの使い道」「趣味の問題」

『クイーンの定員U』(1992)宇野利泰訳(光文社文庫)収録作品
「文法の問題」

『ハヤカワ・ミステリマガジン1984年1月号』(1984)(早川書房)収録作品
「逃げる足音」

『ハヤカワ・ミステリマガジン1984年5月号』(1984)(早川書房)収録作品
「鞄の中の猫」

『暗号ミステリ傑作選』(1980)宇野利泰訳(創元推理文庫)収録作品
「龍頭の秘密の学究的解明」

『伯母殺人事件・疑惑』(2005)河野一郎訳(嶋中文庫)収録作品
「アリババの呪文」

『アリ・ババの呪文』(1954)黒沼健訳(日本出版協同 異色探偵小説集)収録作品
「アリ・ババの呪文」「銅指男」「二人のウィムジイ卿」「嗤う足音」

創元推理文庫