クイーンの定員 #078


アシェンデン
(秘密諜報部員)

Ashenden

W(ウィリアム)・サマセット・モーム
William Somerset Maugham

ウィリアム・ハイネマン 1928年
London: William Heinemann


Heinemann
1st edition in UK

著者サマセット・モームが自身第一次世界大戦の時に英国情報部に勤務していた経験をもとに執筆したスパイ小説です。短編の形をとっていますが、全体として1つの物語を形成しており、長編と言った方が良い作品です。


小説家アシェンデンは第一次大戦の最中祖国イギリスに戻ったおり、Rと呼ばれるイギリス情報部の陸軍大佐に声をかけられる。小説家という肩書きを活かして諜報部員として働いてみないかと言うのだ。以後アシェンデンは偽造パスポートを片手に世界中を飛び回りイギリス軍のために活動を行なった。スパイ小説といっても、派手なアクションシーンや逃亡劇がある訳ではありません。諜報部員アシェンデンの目を通して、戦争中の人々、特にスパイ活動に携わっている人物達の生活が淡々と描かれています。スパイ活動という裏稼業よりも、人生や恋愛など彼らの表の生活をはかなく映し出した物語には、決して衝撃的なエンディングがある訳ではなく、余韻を残しながら次なる物語へと移っていきます。

収録短編

R大佐
−R.−
家宅捜索
−A Domiciliary Visit−
ミス・キング
−Miss King−
毛なしのメキシコ人
−The Hairless Mexican−
黒い髪の女
−The Dark Woman−
ギリシャ人
−The Greek−
パリへの旅
−A Trip to Paris−
ジューリア・ラザリ
−Giulia Lazzari−
グスターフ
−Gustav−
裏切者
−The Traitor−
舞台裏
−Behind the Scenes−
大使閣下
−His Excellency−
銅貨の賭け
−The Flip of a Coin−
旅の道連れ
−A Chance Acquaintance−
恋とロシア文学
−Love and Russian Literature−
ハリントン氏と洗濯物
−Mr. Harrington's Washing−


ハヤカワ・ポケットミステリ
『アシェンデン』(1928)加島祥造訳(ハヤカワ・ポケットミステリ)収録作品
全編

『秘密諜報部員』(1959)龍口直太郎訳(創元推理文庫)収録作品
全編