クイーンの定員 #088


スーザン・デアの事件簿
The Cases of Susan Dare

ミニオン・G(グッド)エバハート
Mignon G. Eberhart

ダブルデイ、ドーラン 1934年
Garden City, New York: Doubleday, Doran


Doubleday 1st edition

「同時代のアメリカ女性誌によって展開された、短編形式における典型的女性探偵――若く、魅力的、夢見がちで、やたらと感情的――の最上の例は、次の書に見られる。」

エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)


 ミニオン・エバハートというとHIBK派であり、ロマンティック・ミステリであるという印象をどうしても抱いてしまいます。長編だけでも60作近くありながら、最近翻訳された『死を呼ぶスカーフ』(論創社)しか読んだことがなく、それも予想通りだったので、さらに他の作品も読み続けようとは正直言って思いませんでした。ところが、本短編集を読んで、その印象が一転しました。短編ながら、主人公は論理的に推理しているし、伏線もうまく引いてある。ロマンスも含まれていますが、話を膨らますのにちょうどいい適量に抑えられています。ガチガチの本格物とは言えませんが、読んで推理を十分楽しめる作品集だったのです。
 主人公スーザン・デアは若き女流ミステリ作家で、招かれた晩餐会で殺人事件に巻き込まれ、探偵としての才能を開花させます。ふだんはシカゴの街に一匹の犬と暮らしており、その活躍によってシカゴ警察からも貴重なコンサルタントと目されます。なにごとにも好奇心旺盛で、危険を顧みずに飛び込んでいきながら、いざとなると恐怖に怯える面もあります。
 彼女を支えるのがシカゴの新聞記者ジェームズ・バーンで、彼女の才能を買って事件に巻き込む一方で、彼女の危機を何度も救います。二人の関係が微妙に発展していくところも読み逃しできません。


収録短編
スーザン・デア登場
−Introducing Susan Dare−
女主人クリスタル・フレームが自身の屋敷で開いた晩餐会には、彼女の弟ランディやブロムフェル夫妻の他に、女流ミステリ作家のスーザン・デアも呼ばれていました。ランディがブロムフェル氏の目前でブロムフェル夫人に好意を見せ、晩餐は不穏な雰囲気に包まれます。そしてその夜、ブロムフェル氏が銃で射殺される事件が起きるのです。銃声を聞いた下男は犯人が赤い指輪をはめていたと証言します。
スパイダー
−Spider−
レイ老人の遺産を継ぎ、レイ家に住む四人の家族。そのうちのひとり、キャロライン・レイが何かに怯えていることをジム・バーンは知り、スーザン・デアにレイ家を訪ねてもらうことにします。一番年上で、レイ家の養女であるマリーは耳が聞こえず、一匹の猿がいつもそばにいました。ほかにキャロラインの従姉妹のジェシカと甥のデイヴィッドが住んでいました。そしてスーザンが四人と出会った直後、マリーが銃で心臓を撃ちぬかれ殺されるのです。
イースター島の悪魔
−Easter Devil−
翌日に芝居の初日を迎えようとしていた劇場で俳優のコルスターが鈍器のようなもので殴られて死亡します。被害者は舞台の上で死んでおり、近くに凶器らしきものは見当たりませんでした。犯行時に劇場にいたのは被害者の妻と妹、監督、そして妻に付き添う男性の四人だけで、劇場のドアに鍵がかけられていたことから外部の人間による犯行とは考えられませんでした。ジムと共に現場に駆けつけたスーザンは楽屋から真相のヒントを得ます。
−The Claret Stick−
グラッドストーン・デニスティという男の屋敷で、ひとりの使用人が殺されます。被害者は背中を銃で撃たれており、屋敷の近くの渓谷で発見されます。屋敷にはグラッドストーンとその妻、母親、弟とふたりの使用人が住んでいました。スーザンは警察の依頼でグラッドストーンの妻の看護を名目に屋敷に入り込み、事件の真相を探ります。屋敷にはイースター島のモアイを模した木彫りの像が置いてあり、不気味な雰囲気を醸し出していました。
−The Man Who Was Missing−
アパートに住む画家の男性が忽然と姿を消します。男性の日常品は部屋に残されており、旅行に出た気配もありませんでした。同じアパートに住む女性が男性の安否を気遣い、スーザンに助けを求めます。女性と共にアパートを訪れたスーザンは、床に拭き取られた血痕らしき跡を見つけます。
−The Calico Dog−
イダベル・ラッシャー夫人の元に二人の若い男性が現れ、自分はあなたの息子だと名乗り出ます。夫人には一人の息子がいましたが、彼が四歳の時に子守の女性に連れ去られ、それ以来行方不明となっていたのです。それから二十年が経ち、突然現れた息子に夫人は戸惑います。ふたりのうちどちらかが本人で、どちらかが偽者だったからです。息子には三千万ドルの遺産相続があり、一人はそれが目当てと考えられました。


『ハヤカワ・ミステリマガジン1977年6月号』(1977)(早川書房)収録作品
「スーザン・デア登場」

『犯罪の中のレディたち・上』厚木淳訳(創元推理文庫)収録作品
「スパイダー」

『ハヤカワ・ミステリマガジン1997年2月号』(1997)(早川書房)収録作品
「イースター島の悪魔」