クイーンの定員 #094


不可能犯罪捜査課
The Department of Queer Complaints

カーター・ディクスン
Carter Dickson

ウィリアム・ハイネマン 1940年
London: William Heinemann


創元推理文庫

ロンドン警視庁に所属し、不可解な事件を専門に扱うD三課。238ポンドの巨漢マーチ大佐とロバーツ警部の二人が通常では考えられない奇妙な事件を解決していきます。


収録短編

新透明人間
−The New Invisible Man−
アパートの向かいの部屋で男が撃たれるのを目撃したとの通報があった。その通報してきた男は犯人は透明人間だと言う。また現場に急行したが被害者が消えていたとも言った。ありえない話の真実は?「人を騙す」という観点ではミステリーと同じ手品を巧みに取り入れています。
空中の足跡
−The Footprint in the Sky−
雪の降る夜、女性が何者かに襲われ瀕死の重傷を負う。唯一残された足跡から隣人の女性が犯人と思われた。しかしその女性は確かに雪の上を歩いた記憶はあるが、襲った記憶は無いと言う。ちょっと現代ミステリーでは使いにくいトリックです。
見知らぬ部屋の犯罪
−The Crime in Nobody's Room−
パーティー帰りの男がアパートの自室に入ってみると、壁の絵やスタンドの笠など部屋の装飾品がまるっきり違っていた。間違えたと思い部屋を出ようとするとコートを裏返しに着た男の死体と出会う。アパートの部屋がなくなるという大胆なトリック、大味ながら細かい点も楽しめます。
ホット・マネー
−Hot Money−
閉店直前の銀行が4人組の男に強盗に押し入れられ、総額二万三千ポンドの現金と証券が盗まれた。すぐに犯人は捕まったが、肝心の現金は発見されなかった。警察は現金を所有していると見られる男の家を捜索したが、一枚たりとも見つける事ができなかった。ポーの「盗まれた手紙」の向こうをはる消失物です。
楽屋の死
−Death in the Dressing-Room−
ナイト・クラブの女性ダンサーが何者かに刺殺される。第一発見者は男物の財布を拾った不審な女性だった。店の支配人は気が狂ったようにダンサーの死を嘆いていた。ほんの一瞬の殺人がどのようになされたのか?ちょっと首をかしげたくなる人物入替トリックです。
銀色のカーテン
−The Silver Curtain−
カジノで負けた男が、別の男から一万フランの仕事を持ち掛けられる。不信に思いながらも後をついていくと、仕事を持ち掛けた男が一瞬目を離したすきに殺される。そこは袋小路なのに犯人の姿は見えなかった。殺害トリックに工夫が殺された秀作です。
暁の出来事
−Error at Daybreak−
海に突き出た岩の上で男が殺される。数人の目撃者がいたにもかかわらず、犯人及び殺害手段が判らなかった。背中に何かが刺さり殺されていたが、背中は海を向いていたのだ。結局、海で空気銃を用い遊んでいた被害者の娘が逮捕される。奇をてらったプロットで、うまくできています。
もう一人の絞刑吏
−The Other Hangman−
街できらわれている男が殺される。容疑者は同じく街のきらわれ者で、ケンカをしていたなどの証言から有罪となり、絞首刑が確定する。しかし死刑執行の前日雨が降り、絞首台の板が開かず執行は延期される。その後別の人間が自首し、死刑囚は冤罪と判るが、その男は牢獄で殺されて発見される。非常に考え抜かれたプロットであり、本編最高傑作と言えるでしょう。
二つの死
−New Murders for Old−
伯父の死とともに事業を始め、成功させた男が過労で突然倒れる。休養を薦める医師である弟の指示に従い、男は世界一周の船旅に出る。そして帰国しようとした直前に男は自分の死亡記事を新聞で読む。一体殺された男は誰なのか?カーお得意の怪奇物ですが、結末が腑に落ちません。
目に見えぬ凶器
−Persons or Things Unknown−
郷士の娘が地主と婚約を結んだ。しかし王政復活により地主は土地を失うこととなり、婚約も破談となった。一旦娘は別の男と婚姻をする意志を固めるが、地主が土地を失わずに済むことが判るとその地主と復縁しようとした。そして三人だけが居る部屋で地主が殺される。しかし凶器は見つけることができなかった。ちょっとこの隠し場所は如何なものでしょう。
めくら頭巾
−Blind Man's Hood−
クリスマスに知人宅を訪ねた夫婦は、一人の家政婦らしき女性の出迎えを受ける。家の者はその女性を除き全員外出していると言う。そしてその女性は昔この屋敷であった殺人事件について語り始めた。それは犯人のいない不思議な事件だった。カーの持ち味が存分に楽しめます。

『カー短編全集1/不可能犯罪捜査課』(1970)宇野利泰訳(創元推理文庫)収録作品
「見知らぬ部屋の犯罪」以外全編

『世界短編傑作集5』(1961)江戸川乱歩編(創元推理文庫)収録作品
「見知らぬ部屋の犯罪」