クイーンの定員 #104
迷宮課事件簿
アメリカン・マーキュリー 1947年
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Faber and Faber 1st edition |
オースチン・フリーマンによって世にもたらされた倒叙ミステリを新しい形で受け継いだのが本書『迷宮課』シリーズです。彼らは事件が迷宮入りするとともに送られてきた様々な証拠品を、ほんの偶然から事件解決に結びつけます。どの作品も最後の1文に注目。
アメリカン・マーキュリー版収録短編
・ | ゴムのラッパ −The Rubber Trumpet− |
気ままに生きていた一人の男が中年の独身婦人と付き合いながら、別の若い小間使いの女性と結婚する。しばらくの新婚生活の後、男は新婦を殺害し中年婦人との交際を再開した。エラリイ・クイーン他多くの作家・批評家が絶賛した迷宮課最初の作品。 | |
・ | オックスフォード街のカウボーイ −The Case of Merry Andrew− (The Cowboy of Oxford Street) |
お互いに過去の事に関して嘘をついて結婚した男女がいた。その二人の前に過去に新婦を賛美していた男が現れる。そして不思議な三人の生活が始まり、新郎は新婦と男の関係を怪しみ始めた。指紋を巧みに利用しています。 | |
・ | ベッドに殺された男 −The Man Who Was Murdered by a Bed− (The Flannel Petticoat) |
恐喝を得意としていた男が殺された。ベッドの下で発見され、死体の上には女性のペティコートが被さっていた。有力な容疑者として二人の議員の名が挙げられた。二人はお互いに反目しあう仲でもあった。迷宮課シリーズにしては珍しく、犯人は最後まで判りません。"The Flannel Petticoat"がオリジナル・タイトルでエラリイ・クイーンによって本題に変更されました。 | |
・ | けちんぼの殺人
−Mean Man's Murder− (A Mean Man's Murder) |
幼少時代の経験から金銭に関してはケチになった男がいた。その性格から、何万ポンドもの貯えがありながら、300ポンドの毛皮を買いたいという妻の申し出を断ったため、妻は別の男の元へ行くと言い出した。そのためケチなこの男は妻ともう一人の男を毒殺した。物に対する価値観から犯人を特定しようとするプロットの妙があります。 | |
・ | 失われた二個のダイヤ −Snob's Murder− (The Snob's Murder) |
道楽者の貴族が身分の低い美人な女中と深い仲になった。当初は問題無かったが、次第に身分の差が殺人を犯すまでに至ってしまった。有罪の決め手が最期に明かされる完成度の高い倒叙ミステリです。 | |
・ | −The Case of the Honest Murderer− (Murder in the Cowshed) |
・ | 相場に賭ける男 −The Man Who Played the Market− (The Gambler's Wife) |
夫は結婚当初ロンドンの株式仲買人でイギリスのサッカー代表でもあった。しかし不況の結果、財産はほとんど無くなり、娘を学校に通わせる資金すら失いそうだった。そのため妻は夫を殺害し、貧乏のどん底から脱しようとした。株価の変動が事件の原因を作り、事件を解決を導いています。 |
フェイバー&フェイバー版収録短編
・ | ゴムのラッパ −The Rubber Trumpet− |
・ | 笑った夫人 −The Lady Who Laughed− |
広いカーペットに巻き込まれるという芸を持った喜劇役者がいた。その男の家で催されたパーティーの最中に彼の細君が行方不明になり、後にカーペットの中から死体となって発見された。プロットの発想がすばらしいです。 | |
・ | ボートの青髭 −The Man Who Murdered in Public− (The Cleu Proof Murders) |
男は女中頭だった女と再会し、ボート漕ぎに出かける。バランスを崩してボートが転覆すると、女は男を「けだもの」と言ってののしったため、男は女を溺死させてしまう。果たしてこれで立証できるのか疑問です。"The Clue Proof Murders"がオリジナル・タイトルでエラリイ・クイーンによって本題に変更されました。 | |
・ | 失われた二個のダイヤ −The Snob's Murder− |
・ | オックスフォード街のカウボーイ −The Cowboy of Oxford Street− |
・ | 赤いカーネーション −The Clue of the Red Carnations− |
駅の荷箱の中から、蒸気ローラーの車軸の代わりに、全裸の男の死体が発見された。周辺を捜索した結果、車軸は発見されなかったが、一本の赤いカーネーションが拾われた。花という明と殺人の暗を見事に対比させています。 | |
・ | 黄色いジャンパー −The Yellow Jumper− |
一人の数学教師の男が新任の現代語女性教師に恋をした。男が月明かりの下で淵の岸にいると、水面下数フィートのところに愛する女性の姿を見た。エンディングがとても印象的です。 | |
・ | 社交界の野心家 −The Case of the Social Climber− |
大富豪の銀行業者ステントラーと伯爵の爵位を継ぐハデナム卿は学生時代の先輩後輩だった。社交クラブにあこがれるステントラーは23年間かかって入会寸前まで行くが、ハデナム卿によって妨害されてしまう。スノッブな世界が楽しめます。 | |
・ | 恐妻家の殺人 −The Henpecked Murderer− |
恐妻家の男が会社の社員の女性に恋をした。その女性が妻に離婚をせまるために自宅に乗り込んできた際、男はカッとなってその女性を殺してしまう。そして夫婦は殺人があったことを消し去ろうとした。犯人を自白に追い込むトリックが秀逸です。 | |
・ | 盲人の妄執 −Blind Man's Bluff− |
検察官だった男が、担当していた事件の被告の情婦に硫酸をかけられ失明してしまう。彼は後に舞台の脚本家となるが、妻が舞台関係者と仲良くなったことを恨み、舞台関係者の殺害を計画する。盲目を利用し自殺に見せかけようとした犯人と、盲目であるが故に犯人と断定した迷宮課の対決が見事です。本編最高の出来。 |
ハヤカワ・ポケミス |
『迷宮課事件簿』(1974)村上啓夫・他訳(ハヤカワ・ポケットミステリ)収録作品 |