クイーンの定員 #106


診断は他殺
Diagnosis:Homicide

ローレンス・G・ブロックマン
Lawrence G. Blochman

J・B・リッピンコット 1950年
Philadelphia: J. B. Lippincott


Lippincott 1st Edition

「一九五〇年の傑出した短編小説集は医学ミステリーと科学捜査の現代的混合の完璧な見本だった。」

エラリイ・クイーン著『クイーンの定員』からの引用(名和立行訳)


 著者ローレンス・G・ブロックマンは、一九〇〇年カリフォルニア生まれのジャーナリストで、サンディエゴを皮切りに、東京、上海、カルカッタ、バンコク、パリで警察まわりの記者をしていたことが本書の序文に書かれています。ブロックマンの最初の長編ミステリは一九三四年に発表された『Bombay Mail』ですが、翻訳もされている短編ミステリ「赤ワイン」はそれ以前の一九三〇年に既に雑誌に発表されています。
 ソーンダイク博士の後継者とも言われるドクター・カフィーが最初に登場したのは、一九四七年に〈コリアーズ〉誌に掲載された「But the Patient Died」で、その後同誌に連載されたシリーズを一冊の短編集にまとめたのが本書になります。
 ドクター・ダニエル・ウェブスター・カフィー(Dr. Daniel Webster Coffee)は、ノースバンク市にあるパスツール病院で勤務する病理医で、顕微鏡や検査機器を使って様々な分析を行っています。ドクター・カフィーの片腕となるのが、インドのカルカッタ医科大学からの奨学生であるモチラル・ムーカージ博士で、ドクター・カフィーに的確なアドバイスを送ります。もうひとりの重要なシリーズ・キャラクターがノースバンク警察のマックス・リッター警部補で、ドクター・カフィーの協力を得て数々の難事件にのぞみます。


収録短編
−But the Patient Died−
結婚一年目の若い女性ハリエット・バロンが盲腸手術の直後に死亡します。手術を担当したアンドリューズ博士は手術が失敗したとは思えず、ハリエットの死に疑問を抱いて病理学医のドクター・カフィーに相談します。ドクター・カフィーはハリエットの死がヘパリンと呼ばれる血液凝固防止剤によるものであることを突き止め、他殺と断定します。
ディナーはラム酒で
−Rum for Dinner−
ひとりの男性が女性に付き添われて病院に運ばれてきますが、着いた時には既に死亡していました。男性は前夜の夕食を食べた後に急に具合が悪くなったとのことでした。検査の結果、男性の死因は毒によるものと判明しますが、その男性は他の人たちと全く同じものを食べていたことも判りました。
−The Phantom Cry-Baby−
ひとりの弁護士がドクター・カフィーを訪れ、ムーカージ博士がルイーズ・ゲーブル夫人にこれ以上近づかないよう注意します。ゲーブル夫人は夫と幼い子を亡くしており、夜になると子供の泣く声が聞こえると訴えていました。ゲーブル夫人と会ったムーカージ博士は彼女に再婚することを勧めますが、弁護士は彼女が求めているのは夫ではなく精神医だと主張します。
なまず物語
−Catfish Story−
ロバート・アーリントンという男が、客として訪れていたスミス家の階段の下で死んでいるのが発見されます。主人のジョナサン・スミスは、自分には夢遊病の気があり、自分が無意識のうちに殺した可能性があると言います。死体を検分したドクター・カフィーは、死体が移動させられた証拠を発見します。
−The Half-Naked Truth−
ひとりの男がマックス・リッター警部補を訪れ、ナンシー・ウィンという名の女性を知らないかと尋ねます。男は私立探偵で、ナンシーの夫からの依頼で彼女の行方を追っていました。翌朝、そのナンシーが全裸に近い状態で路上にいたところを発見され、すぐさま病院に運ばれます。ところが、ナンシーはすぐに回復し、夫と名乗る男とともに退院してしまいます。
やぶへび
−Deadly Back-Fire−
トリビューン紙の女性社長ウィニフレッド・ウェストが、部下にインターフォンを通じて命令を下している最中に銃で撃たれます。警察と救急が駆けつけた時にはウィニフレッド・ウェストはまだ生きており、パスツール病院で手術を受けることになりました。手術には大量の輸血が必要なためドクター・カフィーが呼ばれ、ドクター・カフィーは警察が現場から押収したガムと死んだ蚊から犯人を突き止めようとします。
−Brood of Evil−
マーストン医師から警察に電話があり、夜の7時に警察官にオフィスまで来てもらうよう依頼があります。マックス・リッター警部補が約束の時間にオフィスを訪ねると、マーストン医師は何者かに刺されて死亡していました。リッター警部補はマーストン医師の診療記録を調べ、ひとりの女性の妊娠検査結果を発見します。
−Diagnosis Deferred−
娘の結婚式に参列するために、彼女の母親はハワイからノースバンクに向かっていました。ところが、シカゴからノースバンクに向かう列車が雪で立ち往生し、母親は36時間もの間、寒い列車のなかで閉じこまれます。体調を崩した母親は、結局娘の結婚式に出席することなく亡くなってしまいます。検死が行われることになり、病理検査のための検査試料がドクター・カフィーに届けられたのですが、その検査試料が実験室から盗まれてしまいます。


『美食ミステリ傑作選』(1990)酒井常子訳(河出文庫)収録作品
「ディナーはラム酒で」

『エドガー賞全集/上』(1983)田口俊樹訳(ハヤカワミステリ文庫)収録作品
「なまず物語」

『ミステリマガジン No.294』(1980)田口俊樹訳(早川書房)収録作品
「なまず物語」

『別冊宝石119号』(1963)収録作品
「やぶへび」

『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』(2001)(角川文庫)収録作品
「やぶへび」