クイーンの定員 #110
列車に御用心
ヴィクター・ゴランツ 1953年 |
論創社 冨田ひろみ訳 |
密室やアリバイ崩しに挑んだ十六編の短編が収められたクリスピンの初短編集。十四編にオックスフォード大学英文学教授ジャーヴァス・フェンが登場し、小さな手がかりから驚くべき真相を解き明かします。
収録短編
・ | 列車に御用心 (別題:列車にご用心) −Beware of the Trains− |
ボーレストン駅を発車し、途中止まることなくクラフ駅に到着した列車から運転士が忽然と消えます。当時、強盗を追っていた警察が駅周辺に配置されており、駅からは誰も出ていないことが証明されていました。 | |
・ | 苦悩するハンブルビー −Humbleby Agonistes− |
酒に酔った男が散弾銃を抱えて退役軍人の自宅に入り込み、退役軍人に向かって発射します。弾がそれたため、男は再び銃を構えようとします。しかし、男が二発目を発射する前に、退役軍人は自分の拳銃をつかみ、男に向かって撃ちます。 | |
・ | エドガー・フォーリーの水難 −The Drowning of Edgar Foley− |
エドガー・フォーリーという男が溺死体となって発見されます。妻の証言によると、エドガーが妻を蹴りつけていたため、妻を慕っていた精神薄弱者の男性がエドガーを川に突き落としたとのことでした。 | |
・ | 人生に涙あり (別題:〈悲愴〉殺人事件) −"Lacrimae Rerum"− |
作曲家の男性が自宅で刺殺されます。犯行機会は妻しか持っておらず、警察は夫婦仲がうまくいっていなかったことを理由に妻を逮捕しますが、裁判で妻のアリバイが成立し、妻は無罪の評決を受けます。 | |
・ | 門にいた人々 −Within the Gates− |
路上で男性が襲われ、持っていた紙が犯人によって持ち去られます。被害者の男性は警察の依頼でギャング内部の暗号文を解読しており、その解読文が盗まれたのでした。 | |
・ | 三人の親族 −Abhorrèd Shears− |
妻を亡くした男は自分の親族三人に遺産を残すという遺言書を作成し、その親族三人と会います。しかし、その席上で男はピールに毒を盛られ死亡します。 | |
・ | 小さな部屋 −The Little Room− |
若い女性が結婚式当日の朝に姿を消します。それからまるまる二週間、女性の行方は分かりませんでしたが、ある晩、町外れの古い納屋で喉をナイフで切って死んでいるところを発見されます。 | |
・ | 高速発射 (別題:速達便) −Express Delivery− |
金持ちの老人が余命わずかとなり、相続人の間では不穏な空気が流れ始めていました。そんななか、ひとりの女性に従弟が発砲します。幸い弾はそれて女性は助かります。ところがその直後、発砲した従弟を別の女性が正当防衛を理由に撃ち殺したのです。 | |
・ | ペンキ缶 (別題:ペンキ缶を持って) −A Pot of Paint− |
宝石商の男性が納屋のペンキを塗ろうとしたところを背後から殴られます。男性は一命を取り留めますが、二千ポンド相当のダイヤモンドが盗まれます。 | |
・ | すばしこい茶色の狐 −The Quick Brown Fox− |
ジャーヴァス・フェン教授が滞在していたマンシー家でタイプライターで打たれた脅迫文が発見されます。その一番上には”すばしこい茶色の狐”と書かれていました。 | |
・ | 喪には黒 −Black for a Funeral− |
田園地帯の一画で、冒険物語を書いていた作家が死体となって発見されます。その夜、被害者はロンドンに出かけており、近くの駅を降りたところを駅員に目撃されていました。その時被害者は緑色のネクタイを締めていたのですが、死体発見時は黒のネクタイを締めていました。 | |
・ | 窓の名前 −The Name on the Window− |
盛大なパーティが催されている最中、名士の建築家が東屋で刺し殺されます。東屋には埃がたまっており、足跡は被害者のものしか残されていませんでした。そして被害者は死の直前に犯人らしき人物の名前を窓に書き残していました。 | |
・ | 金の純度 −The Golden Mean− |
鉄鋼業で財をなした男が岩山から落ちて倒れているところをフェン教授に発見されます。男は幸い一命は取りとめ、あくまで事故だったと主張します。しかし、フェン教授は近くに落ちていた時計から事件と考えました。 | |
・ | ここではないどこかで (別題:アリバイの向う側) −Otherwhere− |
三十歳、独身の男性が拳銃で殺害されます。男性にはひとりの女性を巡ってライバルが存在し、そのライバルの男が殺人の容疑者となりました。しかし、容疑者のアリバイがない時間帯に、犯行現場近くにいたカップルは銃声を聞いていませんでした。 | |
・ | 決め手 −The Evidence for the Crown− |
若い女性ブランチ・ビニーが殺され、片手が切り落とされて持ち去られます。持ち去られて手には、元婚約者からもらった高価な指輪がはめられており、元婚約者に容疑がかかります。 | |
・ | デッドロック −Deadlock− |
少年ダニエルは近くに住むマーガレットと深夜に探偵ごっこをしていました。ハウスボートで遊んだ後、父親に見つかって家に連れ帰らされたダニエルの靴には血痕が付いていました。そして翌朝、川から死体が発見されます。 |
『世界鉄道推理傑作選1』(1979)中野康司訳(講談社文庫)収録作品
「列車に御用心」
『ハヤカワ・ミステリマガジン1984年9月号』(1984)田村義進訳(早川書房)収録作品
「〈悲愴〉殺人事件」
『年刊推理小説ベスト16〈1964年版〉』(1963)井上一夫訳(荒地出版社)収録作品
「速達便」
『ハヤカワ・ミステリマガジン1980年4月号』(1980)大庭忠男訳(早川書房)収録作品
「すばしこい茶色の狐」
『クイーンの定員W』(1992)池央耿訳・各務三郎編(光文社文庫)集奥作品
「窓の名前」
『ハヤカワ・ミステリマガジン1981年3月号』(1981)田口俊樹訳(早川書房)収録作品
「アリバイの向う側」
『ハヤカワ・ミステリマガジン1979年3月号』(1979)大村美根子訳(早川書房)収録作品
「決め手」
『エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン1959年2月号』(1959)深井淳訳(早川書房)収録作品
「デッドロック」
『翻訳道楽』宮澤洋司訳
「ペンキ缶を持って(No.SP02)」