クイーンの定員 #119


金庫と老婆
The Ordeal of Mrs. Snow

パトリック・クェンティン
Patrick Quentin

ヴィクター・ゴランツ 1961年
London: Victor Gollancz


ハヤカワ・ポケットミステリ

EQMMに投稿される度にエラリイ・クイーンの高い評価を得、何度もコンテストで受賞してきたパトリック・クェンティンの短編が一冊になったのが本書です。どの作品も一癖も二癖もある人物を主体とし、息詰まるサスペンスを展開しながら驚愕のエンディングを迎えます。


収録短編

金庫と老婆
−The Ordeal of Mrs. Snow−
スノウ夫人は姪のローナが結婚したいと連れてきたブルースを好きにはなれなかった。ブルースに家の経理を任したものの、身に憶えの無い小切手の発行にスノウ夫人はブルースの正体を見る。それをブルースに問い詰めた瞬間、スノウ夫人は金庫の中に閉じ込められてしまう。まるで映画を観ているかのように息詰まるシーンが連続する傑作サスペンスです。
少年の意思
−A Boy's Will−
ジョン・ゴドルフィンはイタリアの貧しい子供セバスティアーノの顔をみた瞬間、天使のようだと感じ、百リラ紙幣を与える。以後セバスティアーノは友人マリオとともにジョンの周りを飼い犬のようにつきまとった。しかし、ある娘が殺される事件が発生して以来、セバスティアーノは脅迫者に様変わりした。少年の心に潜む悪をつづったサスペンスです。
親殺しの肖像
−Portrait of a Murderer−
マーティン・スレイターの父親は、周囲から見れば異常に思えるほど息子をかわいがった。しかし息子マーティンはそれが嫌でしかたがなかった。自宅における毎日の生活で父親から逃れられるのはほんの数時間であり、彼はそれを趣味の機械いじりに使った。そんなある日父親が行方不明になる。見事な叙述トリックとしか言いようがありません。
姿を消した少年
−The Boy who Was Lost (Little Boy Lost)−
ブランソンは、亡くなった父親が造り、母親が校長をしている女学校に男一人で通っていた。しかしある日大好きな母親との暮しが二人の叔母の同居により一変する。母親の元を離れさせようとする叔母達と、なんとかしがみついてでもそばに居たいブランソンの戦いが始まった。この短編集でこの位置にあるから活きる作品で、意表をつかれた終り方をします。
11才の証言
(別題:検察側証人)

−Witness for the Prosecution−
  11才のヴェバリイ・ブラウンは母親がいつも若くて綺麗でいることを願っており、母親に群がるおじさんたちとも楽しく遊んでいました。そのおじさんのひとりが拳銃で撃たれて死亡します。拳銃はヴェバリイが隠していたもので、警察は父親を逮捕します。
鳩の好きな女
−The Pigeon-Woman−
  レストランで働くコニー・ウェバーは鳩の世話が大好きでした。その鳩の世話がきっかけでコニーはヨ・ヨンソンという男性と知り合いになります。その鳩好きなヨ・ヨンソンが女性殺害の容疑をかけられます。コニーはヨ・ヨンソンの無実を信じて、殺害時刻にヨ・ヨンソンと一緒に鳩にエサを与えていたと警察に証言します。
はるか彼方へ
−All the Way to the Moon−
  ジョン・フリントは病弱な妻エイミーの介護を五年間続けていました。ある日、ジョンは会社の上司からメキシコ赴任を打診され、そこに未来を感じます。ジョンはその未来を手に入れるために妻エイミーの殺害を計画し、絶対のアリバイ工作を練ります。
母親っ子
−Mother, May I Go Out to Swim?−
小児マヒを患ったため36歳とは言ってもまるで坊やだったジョンは、母親からの「可愛い女の子でも見つけなさい」と言う言伝通りに一人の女性と親しくなる。しかしその女性とのデートと母親からかかってくる電話、どちらを重要視するかでいつも迷っていた。そしてある日母親がジョンのもとへ来た。これぞサプライズド・エンディング、読者を最後にうっちゃります。
汝は見たもう神なり
−Thou Lord Seest Me−
ルーミス氏は妻の目を盗みながら、隣に住む少女におやつを与えることが何よりの喜びだった。ある日その現場を妻に見つかったことでルーミス氏の心が動き始める。そしてその晩、ガスが停止したため妻が窒息死したとルーミス氏は思い込んだ。ロリコン趣味の男性が主役という一風変わった作品です。
ミセス・アプルビイの熊
−Mrs. Appleby's Bear−
未亡人であるミセス・アプルビーは、これまた未亡人である二人の姪と同居していた。私的なところまで関与してくるミセス・アプルビーを姪達は毛嫌い、一人の姪はついにミセス・アプルビーを殺そうとした。しかしミセス・アプルビーはそれに気づき、危うく死をのがれる。狂気の世界と仔熊に代表される幼児的世界が両立する不思議な空間です。
ルーシイの初恋
−Love Comes to Miss Lucy−
ミス・ルーシイ・ブラムは友人の女性二人とメキシコ旅行を楽しんでいた。ある夜、教会見学からの帰り道に物乞いに言い寄られた時、マリオという男に助けられる。その後マリオは三人が行くところ必ず付いて来るようになった。背筋が凍る衝撃のエンディングです。
不運な男
−This Will Kill You−
妻を殺す事を決心したハリイは妻に対し嫌悪感を感じなくなっていた。妻が妹を訪ねるために乗ろうとしていた車のブレーキに細工をし、崖からの転落事故を引き起こそうとした。しかし実際事故は起こったものの、妻は奇跡的に助かった。そしてハリイは次なる殺人を試みた。ラストには驚きのどんでん返しが待っています。

『金庫と老婆』(1963)稲葉由紀訳(ハヤカワ・ポケットミステリ)収録作品
「金庫と老婆」「少年の意志」「親殺しの肖像」「姿を消した少年」「汝は見たもう神なり」「ミセス・アプリビイの熊」「ルーシイの初恋」「不運な男」

『アメリカ探偵作家クラブ傑作選2』(1961)井上一夫訳(東京創元社)収録作品
「検察側証人」

『エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン1957年3月号』(1957)都筑道夫訳(早川書房)収録作品
「11才の証言」

『エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン1958年1月号』(1958)高橋豊訳(早川書房)収録作品
「鳩の好きな女」

『ハヤカワ・ミステリマガジン2003年6月号』(2003)越智めぐみ訳(早川書房)収録作品
「はるか彼方へ」