クイーンの定員 #122


シュロック・ホームズの冒険
The Incredible Schlock Homes

ロバート・L・フィッシュ
Robert L. Fish

サイモン&シュスター 1966年
New York: Simon and Schuster


Simon and Schuster 1st edition

ベイグル街221Bに住むのは迷探偵シュロック・ホームズ。相手はワトニイ博士、ライバルはマーティ教授。正典を見事にパロディ化した「クイーンの定員」唯一の短編集。彼の失敗ぶりが本編の魅力です。 


収録短編
アスコット・タイ事件
−The Adventure of the Ascot Tie−
一人の女性が最近伯父の行動が変なので調べて欲しいと謎めいた電文と共にホームズを訪れた。電文の解読がユニーク。
赤毛の巨人
−The Adventure of the Printer's Inc.−
街の賭け屋が、最近出回っているビラで生活が脅されていると相談に来る。ホームズ達はそのビラにある通り、夜倉庫の中へ侵入した。正典のパロディオンパレードの楽しい作品です。
アダム爆弾の怪
−The Adventure of the Adam Bomb−
「ホームズ死す」の報を聞いたワトニイが墓地に駆けつけると変装したホームズが横に立っていた。兄の依頼で爆発装置を発明した男を調査するためらしい。エンディングがとんでもない作品。
黒眼鏡の楽団
−The Adventure of the Spectacled Band−
薬品の卸売商が倉庫をある男に高額で貸したのだが、ある日覗いてみると数人の楽団が演奏していると言う。ただ演奏するために借りたにしては高すぎるとホームズに相談に来た。途中からオチが判るのですが、それがまたおかしいです。
奇妙な手紙
−The Adventure of the Stockbroker's Clark−
株式仲買人が持ってきた紙には「お前の時間はなくなりつつある」と書かれていた。早速ホームズは捜査を開始し、紙に書かれた真の意味を見つけ出す。英語のルビをふらないとこのパロディの意味が通じませんね。
消えたチェイン=ストローク
−The Adventure of the Missing Cheyne-Stroke−
大学対抗の試合を明日に控え、漕艇の選手が宿舎から行方不明になった。ホームズはその選手の部屋からバレンタインのカードとタイプ文字の並んだ紙を発見する。言葉遊びが多用されとても楽しい一作です。
画家の斑紋
−The Adventure of the Artist's Mottle−
ホームズは「留守にしている間、屋敷の美術品が盗まれていないかどうか確認してくれ」という差出人不明の手紙を受け取った。ホームズが向かった屋敷の絵には乱暴な殴り書きが残っていた。オチが最高にいいです。
ダブルおばけの秘密
−The Adventure of the Double-Bogey Man−
アメリカ植民地軍総帥のケネバンク将軍が忽然と姿を消した。兄の依頼によりホームズが調査に向かうと将軍の家に「ダブルおばけが離さない」という手紙が残っていた。調査方法は本当に名探偵です。
罠におちたドラマー
−The Adventure of the Snared Drummer−
ミュージカルのティンパニ奏者が消えた。彼しか全曲を暗譜している人間がおらず、プロデューサーは困り果てていた。ホームズが出した結論は彼が死んでいることだった。本作品ほど翻訳に苦労する話はないでしょう。
贋物の君主
−The Adventure of the Counterfeit Sovereign−
ベルグラヴィア国王が狐狩りに出ていたところ、白いフェンシング用ジャケットを着た多くの人間に会い、内一人は自分こそがベルグラヴィア国王だと言う。あまりに変なので調べて欲しいと国王から頼まれたホームズは謎の家へと侵入した。みごとにパロディ化した傑作です。
誘拐された王子
−The Adventure of the Lost Prince−
ヴェールで顔をおおった女性が誘拐を示唆した脅迫状を持ってきた。身代金を要求しており、ホームズは慎重に捜査を始め、事件は宮殿の中へと発展していった。ある意味ホームズが自分の意志に反し見事に解決した事件ではないでしょうか。
シュロック・ホームズ最後の事件
−The Final Adventure−
モンテ・カルロのカジノの床下から夜な夜な異様な物音が聞こえてくる。カジノの評判を落としたくない国としては、ホームズに極秘に捜査を頼むしかなかった。そして彼は地下で宿敵マーティ教授と発見した。ここまでパロディにするとは敬服せざるを得ません。本短編集の最後を飾るにふさわしい作品です。


『シュロック・ホームズの冒険』(1977)深町眞理子・他訳(ハヤカワミステリ文庫)収録作品
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