エラリイ・クイーン・ジュニア 「ジュナの冒険」 シリーズ

 エラリイ・クイーンは、国名シリーズを終えた後から、ライツヴィル・シリーズを発表するまでの間、ミステリ作家として壁にぶち当たっていたと言われています。ちょうどその時期にあたる1941年に、過去にピューリツァー賞を受賞したこともある作家サミュエル・マッコイ(Samuel McCoy, 1882-1964)をゴースト・ライターに迎え、エラリイ・クイーン・ジュニア名義で『黒い犬の冒険』を発表します。以後この子供向け(ジュビナイル物)ミステリは、エラリイ・クイーン自身を監修の立場に置き、全てゴースト・ライターの手によって合計11冊発表されます。その内9冊が「ジュナの冒険」シリーズであり、更にその内の8冊がハヤカワ文庫Jrから翻訳出版されました。最後の一冊である『紫色の鳥の秘密』は、エラリイ・クイーン・ファンクラブ発行の会誌『Queendom』別冊8号で読む事ができます。ハヤカワ文庫Jrの「ジュナの冒険」はシリーズでありながら全て翻訳者を替えるという画期的な試みを行なっています。それにもかかわらず、シリーズ全体として話が統一されており、大人が読んでも楽しめるミステリとなっています。



ハヤカワ文庫Jr
西脇順三郎訳

The Black Dog Mystery

「黒い犬の秘密」


(サミュエル・マッコイ)


1941

★★

 友人と隣町まで釣り道具を買いに来ていたジュナは、目の前で銀行強盗を目撃します。警察の追跡にもかかわらず、犯人達は逃げ延びてしまいますが、後日ひょんなことからジュナは彼らの逃走経路を発見します。自力で犯人を突き止めようとするジュナは、いつしか核心にせまっていきます。小さな村エデンボロを中心としたジュナの冒険の第一話です。冒頭から伏線がきちんとひかれており、全体の構成はよくできています。心配性な大人達と探求心旺盛な少年達の対比が微笑ましいです。ペンキのネタは大人向けミステリーでも使えそうですね。

ハヤカワ文庫Jr
内村直也訳

The Golden Eagel Mystery

「金色の鷲の秘密」


1942

★★

 アニー・エラリイおばさんの友人であるパティおばさんを訪ねて、ジュナはチャンプとともに海辺の町ストーニー・ハーバーへやってきます。町で知り合った友人ビリーとヨットで遊ぶなど楽しい日々を送っていたジュナは、パティおばさんの屋根裏部屋から鳥の卵のような不思議な石を発見します。しかしジュナがちょっと家を離れている間に、価値が無いと思われたその石が盗まれてしまいます。さらにパティおばさんの船が何者かに悪戯され漂流する事件も発生し、パティおばさんの過去に謎が隠されていると思ったジュナは再び冒険心を燃やします。最後の最後に全ての種明かしをするという、ジュナが本シリーズの中で一番名探偵気取りをする作品です。

ハヤカワ文庫Jr
中村保男訳

The Green Turtle Mystery

「緑色の亀の秘密」


1944

★★

 新聞社に自分が斡旋している空家が幽霊屋敷なので記事にして欲しいと一人の男が訪ねてきます。ジュナが友人ベンとその屋敷を訪ねると、なかから女の子が現われ、ここは自分の家だと主張します。しかし翌日にはまた空家とおり、昨日空家にベンの飼っている亀を置いてきてしまったジュナは、その亀をなんとか見つけ出そうと屋敷に侵入します。後にジュナの心の支えとなる新聞記者ソッカー・ファーロングさんとの出会いの作品です。子供達の会話や行動がとても軽快で、謎が解かれる様も見事です。

ハヤカワ文庫Jr
中村能三訳

The Red Chipmunk Mystery

「赤いリスの秘密」


1946

★★

 汽車に乗って自分の家へ帰ろうとしていたジュナは、途中の駅で愛犬チャンプが逃げ出してしまい、汽車に乗り遅れてしまいます。おまけに財布も落としてしまい、仕方なくヒッチハイクで家までたどり着こうとしていたさなか、馬車で仕事をしている祖父と孫娘の二人に会い、途中で会った少年と共に家まで一緒に行くことになりました。そこへ不審な二人組の男達が近寄ってきて、またもや事件が発生します。前作『緑色の亀の秘密』の続きとして物語が始まるのが気に入りました。半分を過ぎるまで事件らしきものが何も起き無いのが少々退屈ですが、最後の一ひねりは良く練られていると思います。今回の題名『赤いリス』はちょっと無理があるかもしれません。

ハヤカワ文庫Jr
福原麟太郎訳

The Brown Fox Mystery

「茶色い狐の秘密」


1948

★★

 アニー・エラリイおばさんはジュナと彼の友人トミーを釣りのできるシルヴァー湖へ誘います。そこにはピンドラーさんの妹とその娘が住んでおり、エラリイおばさんとも親しくしていました。湖畔の家々へ船で物を運ぶ仕事をしているベン船長とも仲良くなった一行は、釣りにお菓子作りにと楽しんでいましたが、ベン船長の船が火事に会った頃から様子は一変し、ついにはエラリイおばさんが行方不明となってしまいます。この作品は、「The quick brown fox jumps over the lazy dog」という英語を話す子供が習うと言われる言葉遊びが元となっています。この文章には全てのアルファベットが入っており、物語のなかで重要な役割を果します。

ハヤカワ文庫Jr
石井桃子訳

The White Elephant Mystery

「白い象の秘密」


(サミュエル・マッコイ)


1950

★★★

 リヴァートンにサーカスがやってきたことを知ったジュナとトミーは、その荷をおろすところを見に行きます。その時、空中ブランコ乗りのスピットファイアと知り合いになり、彼らは曲芸のすごさを肌で感じます。しかし本番でスピットファイアはブランコから落ち、大怪我をしてしまいます。落ちた瞬間、彼が「白象」と言い残すのをジュナは聞き逃しませんでした。サーカスという題材をうまく活用し、ストーリーの展開だけで読者を惹き付ける本書は「ジュナの冒険」シリーズのなかでも秀作と言えるでしょう。題名にもなっている「白い象の秘密」が最後まで明かされず、ミステリとしての性質もほどよく持ち合わせているのがいいです。

ハヤカワ文庫Jr
村岡花子訳

The Yellow Cat Mystery

「黄色い猫の秘密」



1952

★★


 友人トミーを訪ねてフロリダに来たジュナは、着いて早々に一匹の黄色い猫と仲良しになります。翌日ジュナはトミーと共にその猫の虫歯を治すため最近できた歯医者へ行きますが、歯医者はまだ街に来たばかりからか治療を行なっておらず、追い返されてしまいます。仕方なく海に出た二人は謎めいた黒塗りの船を見かけます。ジュナが本当に瀕死の状態に追いつめられるシリーズ第7作です。いつものように何気ない日常から突然事件に巻き込まれていくわけですが、中盤において話が膨らむ部分が欠如しているため、読み始めたらもう最後という気がして、少し物足りなさを感じます。


ハヤカワ文庫Jr
大久保康雄訳

The Blue Herring Mystery

「青いにしんの秘密」



1954

★★

 ジュナはおばの家で、先祖にあたる捕鯨船の船長が書き残した航海日誌に「青いにしんをあげてみろ」という謎の言葉と聖書のページらしき書き残しを発見します。興味をそそられたジュナは友人ボビーと共に、航海日誌に秘められた謎を明かそうとします。本シリーズの特徴として、子供向けであるからか、犯人(大人の悪い人)が誰であるかはほぼ自明というのがあります。この作品もそれは同様ですが、「宝物はどこ?」という謎が加わっており、これが最後の最後まで明かされません。レッド・ヘリングならぬブルー・ヘリングの謎がおもしろいです。

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