A Caribbean Mystery

「カリブ海の秘密」

アガサ・クリスティ

1964

★★★

To my old friend
JOHN CRUIKSHANK ROSE
with happy memories of my visit
to the West Indies

Collins Crime Club
1st edition in UK
Dodd Mead Company
1st edition in USA


あらすじ
 甥のレイモンドに勧められ西インド諸島に一人で療養に来たミス・マープル。そこには多種多様の人々がカリブ海でのリゾートを楽しみに来ていた。おしゃべり好きの少佐が、ある殺人の話をマープルにしていて、その犯人の顔写真を見せようとした瞬間、突然少佐の顔がこわばった。マープルの肩越しに誰かを見たらしいのだが、マープルにはそれが誰だかわからなかった。そして次の日、少佐が亡くなった。

感想
 普通このような寄り集まりの登場人物で物語が構成される場合、各人物の特徴や人間関係がわかりづらくなるものですが、見事にクリスティは描ききっています。プロットも妙です。最後にマープルが「最初からわかっていなければならなかったんです。こんな簡単なことなのに。」と話ますが、本当にその通りです。簡単なことなのに気づきませんでした。唯一希望を述べれば、もっとカリブの雰囲気が物語の中に出てもいいなと思いました。

おまけ

 その1)シェイクスピア (p60, p272)
 この本中で「マクベス」と「ハムレット」の二つのシェィクスピアの引用がなされます。「マクベス」のダンカンと「ハムレット」のオフィーリア、二人の訳ありの死が適していたのでしょう。クリスティはシェィクスピアの引用を非常に好んでいて、「親指のうずき」の題名を「マクベス」から取ったりしています。

 その2)昔の恋 (p212)
 マープルが昔あった青年との関係を回顧しています。そして結局「退屈」で終わってしまいます。「バートラム・ホテルにて」でも似たような昔の恋模様がでています。

 その3)未完の三部作
 この本と「復讐の女神」は切っても切られませんが、この「カリブ海の秘密」と「復讐の女神」は未刊の一冊「Woman's Realm」をあわせて三部作になる予定だったそうです。しかし残念ながらその一冊は我々は永遠に読む事ができません。

 その4)プランターズ・パンチ (p22)
 マープルが好んで飲んでいるプランターズ・パンチ(Planters' Punch)とはカリブ海生れのラムを使ったカクテルの一種です。濃い色のジャマイカ・ラム、ライム・ジュース、砂糖、水またはソーダでつくります。またこの処方の比率を韻に踏んだ、こんな詩があります。
 「ひとーつの酸っぱいの(サワー)。ふたーつの甘まーいの(スイート)。みっつの強ーよいの(ストロング)。よっつの弱ーわいの(ウィーク)。」――4つ目が水かソーダのことです。
 その5)西インド諸島にて
 クリスティは「西インド諸島訪問の楽しき思い出とともに旧友ジョン・クルックシャンク・ローズに本書を捧げる」と書いた通り、実際自分がカリブ海を旅したことを思い出にこの本を書いています。旅行の思い出をもとにした作品は他に「ナイルに死す」などがあります。
「カリブ海の秘密」
アガサ・クリスティー
永井淳訳
ハヤカワ文庫

 その6)ルクレツィア・ボルジア (p187, p202)
 2回ほど毒殺者の代名詞的に「ルクレツィア・ボルジア」という名が登場します。ボルジア家とは、スペイン出身でイタリアに足を踏み入れた後、15〜16世紀のイタリア政治史を飾る名門となります。後に法王アレッサンドロ六世となるロドリゴが同家の地位を確立しています。その娘がルクレツィア・ボルジアであり、彼女は最初の伯爵との婚約解消後、3度政略結婚を強いられます。その彼女が父ロドリゴや兄チェーザレ(「君主論」を書いたマキャベリから理想的な新君主と評価される)の毒殺計画へ荷担したと語られていて、この本の中で毒殺者として引用されている訳です。ただし本当にルクレツィアが毒殺を行なったかどうかは根拠がないらしく、土地の人々には彼女は慈善家であったとも言われています。

A Caribbean Mystery

"Plenty of suspense and grips
tight all the way. And for
liveliness of setting and characters
and that peculiarly infectious zest
which makes for her special
brand of hyper-readability, it's
really almost as good as anything
she has done. I've never known
Miss Marple in better shape."

Observer, Maurice Richardson
Rear Dust Jacket of "At Bertram's Hotel"
Collins Crime Club 1st edition in UK

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