A Pocket Full of Rye

「ポケットにライ麦を」

アガサ・クリスティ

1953

★★★★

For
BRUCE INGRAM
who liked and published my
first short stories

Collins Crime Club 1st edition in UK


Sing a song of sixpence, a pocketful of rye,
Four and twenty blackbirds baked in a pie.
When the pie was opened the birds began to sing.
Wasn't that a dainty dish to set before the King?
The king was in his counting house, counting out his money,
The queen was in the parlour eating bread and honey,
The maid was in the garden hanging out the clothes,
When there came a little dickey bird and nipped off her nose.
ポケットにライ麦を 詰めて歌うは街の唄
つぐみを二十四パイに焼き
切って差出しゃ鳴きいだす
お城料理のすばらしさ
王様お庫で宝をかぞえ
女王は広間でパンに蜂蜜
若い腰元庭へ出て乾しに並べたお召しもの
そこへ小鳥が飛んできて可愛いお鼻を突っついた


あらすじ
 投資信託会社の社長が、オフィスでお茶を飲んだ後苦しんで死ぬ。死因は自宅の庭に植えられているイチイの木から取れる猛毒による毒殺だった。効力からして朝食の中に含まれていたと考えられた。ということは家族の中に犯人が。マザーグースの歌にのせて次々と起きる連続殺人。屋敷に乗り込んだマープルは...。

感想
 最後にマープルが泣くシーンがとても印象的でした。犯人に対する憤りが随所に見受けられ、仇をうつ姿に感動します。起承転結がはっきりしていて、クリスティの作品が読みやすいとされる典型的な一冊ではないでしょうか。家族はもちろん、メイドや警部まで人物描写もしっかり出来ていて「ああ、おもしろかった」と必ず言える作品です。

おまけ

 その1)マザーグース(p155)
 言うまでもなく題名「ポケットにライ麦を」はマザーグース「六ペンスの唄(Song of sixpence)」の一節です。「六ペンスの唄」はマザーグースの童謡の中でも5本の指に入るくらい愛唱されていて、曲はスコットランドの古いダンス曲だといいます。この唄がローマ法王と争って、修道院の領地を次々に没収したヘンリー8世を揶揄(やゆ)した唄という節があります。ポケット一杯のライ麦は貢ぎ物の麦畠、二十四羽の黒つぐみは、パイの皮の下にそっと入れられた二十四枚の領地譲渡権利証書だといいます。修道院側ではなんとかヘンリー8世のご機嫌をとろうとしていた事情があったみたいです。パイはそういったワイロを入れるのによく使われていたらしいです。昔の料理本に、パイを切るとパッとなかから小鳥が飛び立つようにパイを作る調理法が載っていたそうです。宴会のさなかに、そのようにして調理したパイのなかから、不意に小鳥を飛ばしてろうそくの火を消させ、お客さんたちにどんちゃん騒ぎをさせる習慣が、昔の英国にはあったといいます。黒つぐみは、ロンドンあたりにはたくさんいて、春になるとオスがすばらしい歌声でメスを呼ぶそうです。
参考文献「マザーグース事典」
渡辺茂 編著
北星堂書店

 その2)ボルジア家の朝餐(p21)
 ボルジア家とは15〜16世紀に渡り数々のお家騒動を起こした名門です。毒殺話が有名なので、こういう風に引用されたのでしょう。ボルジア家に関することは「カリブ海の秘密」にも書いています。
 その3)テニスンの「アーサー王物語詩」(p69, p251)
 アルフレッド・テニスンは19世紀のイギリスの詩人です。クリスティには良く登場します。「アーサー王物語詩(Idylls of the King)」は1859年彼が50歳の時に出版されました。アーサー王に関連した作品には「鏡は横にひび割れて」の題名の由来にもなった「シャロット姫」、「ランスロット卿とギネビア王妃」、「ギャラハッド卿」等があります。
「ポケットにライ麦を」
アガサ・クリスティー
宇野利泰訳
ハヤカワ文庫

 その4)マープル家のメイド(p141,p303)
 残念な最後を遂げるグラッディス・マーティンは17歳の時、セント・フェイス孤児院から行儀作法を教わりにマープル家へ来ます。また同じセント・フェイス孤児院を卒業したキティが本作品の事件発生時点でメイドとして働いています。マープルのメイド思いがひしひしと伝わります。

 その5)ペイシェンス(p202)
 ミス・ラムズボトムがトランプのペイシェンスを行なっているシーンが出てきます。ペイシェンスとはイギリスにおけるトランプのひとり遊びを指します。残念ながら何というゲームをしているかは判りませんでした。

 その6)キップリング(p222)
 ラドヤード・キップリングは1865年インド生まれの作家です。日本ではディズニーアニメでもおなじみの「ジャングル・ブック」が有名です。後にイギリスへ渡りますが、新婚旅行で日本を訪れていて「鎌倉の大仏」という詩も残しています。イギリスの道徳的指導者として様々な責務を果たしました。ちなみにノーベル賞作家です。

 その7)日本の地震(p264)
 ニール警部が読む「タイムズ」紙に「日本を襲った大地震」という記事が載っています。この作品が発表されたのが1953年であることから、その前年1952年(昭27)の十勝沖地震を指すと思われます。M8.2の巨大地震で北海道南部、東北地方北部が被害を受け、死者28人、行方不明5人、家屋の全壊815戸、半壊1324戸、流失91戸の大惨事になりました。


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