The Sittaford Mystery

「シタフォードの秘密」

アガサ・クリスティ

1931

★★★

Collins Crime
1st edition in UK (copy)
Dodd Mead
1st edition in USA

 豪雪に見舞われた山荘、と言えば足跡の無い密室殺人がすぐに連想されますが、クリスティはこの状況を少し違った趣向でミステリに仕上げました。シタフォード村は陸の孤島と言っていい程の僻村で、冬の厳寒期ともなると雪のせいで一層外の世界とは遮断されてます。その中の一軒であるシタフォード荘は最近南アフリカから来たという母娘に貸されていました。その母娘がある雪の日に、近所の住民を呼んで降霊会を行なったところ、そこの大家であるトリヴィリアン大佐が死ぬという天の声を聞いてしまいます。心配になった友人のバーナビ少佐が雪道を片道6マイルかけて大佐の家へ行くと、まさに大佐は殺害され帰らぬ人となっており、更には殺害時刻も降霊会で聞かれた時間と一致していました。この不思議な事件は警察で捜査される一方、容疑者のフィアンセである女性が恋人を救うために独自に調査を行ないます。本書のユニークな点は、事件現場である大佐の家がほとんど登場せず、遥かかなたのシタフォード荘が物語の中心となっていることです。もちろんそれには理由があるのですが、読了するまで少し不自然な感じがします。それゆえ、せっかくユニークな動機と機会も、薄々感づかれる危険性があり ますね。


おまけ

 その1)クリスティの中のミステリ(p127,135,229)
 コナン・ドイルにシャーロック・ホームズ、おまけに『シリンガ殺人事件』などという架空のミステリも登場させています。ちなみに「シリンガ」とはライラックなどのバイカウツギ属、ハシドイ属の植物を指します。

 その2)ボア戦争(p252)
 19世紀末から20世紀初頭にかけて南アフリカの支配をめぐってイギリス人とボーア(Boer)人の間で行われた帝国主義戦争のことです。

 その3)トリスタンとイゾルテ(p280)
 『トリスタンとイゾルテ』はケルトの伝説に始まり、1150年頃に初めて記録として書かれたものがあったと言います。その10年後にトーマが、さらに50年後にドイツの詩人ゴットフリート・フォン・シュトラスブルクが自分なりに語り直しました。そして今からわずか100年前にワーグナーが世界の偉大なオペラの一つに仕立てあげました。
「シタフォードの秘密」
アガサ・クリスティー
田村隆一訳
ハヤカワ文庫

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