Death in Captivity

「捕虜収容所の死」


マイケル・ギルバート


1952

★★★★
創元推理文庫
石田善彦訳

 第二次世界大戦下、イタリアにある第一ニ七捕虜収容所では、英軍を中心にした連合軍兵士の捕虜たちが脱走委員会を結成し、C収容棟の地下に脱走用トンネルを掘っていました。ところがある日、そのトンネルの奥でスパイ容疑のかかっていた捕虜のひとりが土砂の下敷きになって死んでいるのが発見されます。炊事場の床に隠されたトンネルの入り口を開けるには男四人の力が必要で、被害者や加害者がどうやってトンネルに侵入したかが謎とされました。トンネルの存在が暴露されることを恐れた脱走委員会は、被害者をA収容棟の地下に掘ったトンネルに移し、偽装を試みます。この偽装事件に対してイタリア軍は一人の捕虜を犯人として捕まえ、処刑を実行することを伝えてきます。一方、脱走委員会は”カッコー”ことヘンリー・ゴイルズ大尉を探偵に任命し、独自に事件の真相を探ろうとします。

 400人もの捕虜をイタリア軍に見つかることなく如何にして脱走させるか――この大作戦の計画から実行までをスリル満点に描いた傑作冒険小説です。そしてその計画を台無しにしかねない殺人事件に大慌てする脱走委員会と捕虜たち、しかしゴイルズ大尉は着実に手掛かりの断片を拾い集め、一人静かに真相を知ってしまいます。捕虜たちによるユーモアな場面も多々織り交ぜながら、大興奮のエンディングへと突き進んでいき、読者は最後の数ページで事件の真相を知ることになります。見事に散りばめられた伏線の数々が本格ミステリの要素を、雄叫びが聞こえてきそうな捕虜たちの活発な意気が冒険物の要素を、そして脱走実行までの手に汗かくカウントダウンがスリラーの要素を持ち、それらが見事に融合して本書は出来上がっているのです。

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