Crippen & Landru
Limited Edition (161/300)
1st edition in USA
Diagnosis: Impossible
The Problems of Dr. Sam Hawthorne

「サム・ホーソーンの事件簿T」

エドワード・D・ホック
Edward D. Hoch


1996

★★★★

創元推理文庫
木村二郎訳

収録短編

The Problem of the Covered Bridge
有蓋橋の謎

2台の馬車が雪の降り積もった道を有蓋橋に向かって走っていました。遅れをとっていた2台目の馬車が有蓋橋に到着してみると、1台目の馬車が有蓋橋のなかで忽然と消え失せていたのです。馬車が有蓋橋に入った轍の跡は残っているのですが、橋の反対側から出た形跡が全く無いのです。サム・ホーソーン医師の記念すべきデビュー作で、謎を解く手がかりの隠し方が絶妙な人間消失物です。

The Problem of the Old Gristmill
水車小屋の謎

水車小屋に10ヵ月間住んでいた男が町を離れるために引っ越しの準備をしていました。男が日誌をつめた金庫をロンドンに送ったその夜、水車小屋が火事になり、焼け跡からその男の死体が発見されたのです。しかし男の死因は焼死ではなく、頭を殴られたことによるものでした。ノースモントの田舎の風景が爽やかに描かれ、さらに犯人の意外性にも富んでいます。

The Problem of the Lobster Shack
ロブスター小屋の謎

婚約パーティーの席上で余興として魔術師による脱出劇が演じられようとしていました。手足を縛られ鍵のかかった小屋に一人閉じ込められた魔術師、その小屋を取り囲むように見守る大勢の観客。しかし魔術師は約束の時間が過ぎても小屋から出てきません。心配になったサム医師達が小屋を中を覗くと、そこにはナイフで喉を切られ死んでいる魔術師がいたのです。これぞ不可能犯罪の傑作、結末も哀愁が漂う好編です。

The Problem of the Haunted Bandstand
呪われた野外音楽堂の謎

野外音楽堂では独立記念日を祝って催しものが開かれ、バンド・コンサートや町長の挨拶が行われていました。花火が始まり出したので町長が挨拶を終わろうとしたその瞬間、黒いマントに目隠し帽をかぶった人影が町長に近づき、胸にナイフを突き刺したのです。そして閃光と煙につつまれ、犯人は壇上から消え失せてしまったのでした。犯人が危険を犯して衆人の前で殺害を行なう動機がユニークです。原書カバー絵は本編の1シーンです。

The Problem of the Locked Caboose
乗務員車の謎

サム医師が乗っていた汽車にはボストンで鑑定と競売にかけられるための高価な宝石が積まれていました。宝石は乗務員車に据えられた金庫に入れられ、車掌がその車両に居座る厳重な警備がひかれていました。しかしその夜、なかから鍵のかかったままの乗務員車のなかで車掌は殺害され、宝石はまるごと全部盗まれてしまったのです。他の作品と比べてひねりが少ないのが残念です。

The Problem of the Little Red Schoolhouse
赤い校舎の謎

学校のブランコに乗って遊んでいた少年が、先生がほんの僅かなあいだ目を離したすきに誘拐されます。犯人が身代金を要求するためにかけてきた電話が特定できたので、レンズ保安官とサム医師はその家に向かいますが、家主は犯行を否定し、少年は発見できません。そして、引き続きかかってきた電話で、犯人は身代金の運び役としてサム医師を指名するのです。子供の視点と大人の視点をうまく利用した作品です。

The Problem of the Christmas Steeple
そびえ立つ尖塔の謎

ノースモントの町はずれにジプシーが野営しており、町の人々との交流を深めるために、牧師は彼らをクリスマスの教会に招きました。お祈りや讃美歌の後、大方のジプシーは帰ったのですが、リーダーと牧師は教会に残っていました。レンズ保安官が牧師と話をするために教会に入ると、牧師はナイフで刺され死んでおり、横にはリーダーがひとり立っていたのです。短編なのにどんでん返しが用意されています。

The Problem of Cell 16
十六号独房の謎

サム医師が出会った交通事故がきっかけで、全国で指名手配されていた詐欺師が捕まります。詐欺師はノースモントに新しく出来た留置所に入れられますが、すぐに逃げ出してみせると豪語します。その独房は鍵がかけられ、留置所の入口も鍵がかけられ、その入口は保安官が見張っているという厳重な環境にありましたが、詐欺師は本当に逃げ出してしまいます。ジャック・フットレルの名作「十三号独房の問題」にも引けを取らない脱出物の傑作です。

The Problem of the Country Inn
古い田舎宿の謎

宿屋を経営していた男が突然押し入ってきた強盗に銃で胸を撃たれ死亡します。その後強盗は廊下を走り裏口の方に逃亡しますが、客室係が強盗を追いかけて裏口に行くと、そこには誰もおらず、裏口のドアもボルトが内側からかけられ閉められていたのです。二重三重に謎を設け、その都度合理的な解を提供するのは見事です。

The Problem of the Voting Booth
投票ブースの謎

理髪店に投票所が設けられた選挙当日、立候補者のひとりが投票するために、3方を堅い木で囲まれ、入口がカーテンで仕切られた投票ブースへと入っていきました。そして、5分近くたって出てきた立候補者は、胸をナイフのようなもので刺されており、崩れるようにその場に倒れ死亡してしまいます。投票ブースの入口は対立候補であるレンズ保安官やサム医師が見守っているなかでの事件だったのです。ナイフの隠し場所に意外と気付かないものだと感心してしまいます。

The Problem of the Country Fair
農作物祭りの謎

ノースモントの建立300年を記念して、今年の農作物祭りではタイム・カプセルを埋めることになりました。カプセルのなかには町民の好きなものが入れられ、観衆の目前で閉じられ地中へと埋められたのです。しかし同時に町の嫌われ者が車に血痕を残して行方不明になります。サム医師の強い意志でカプセルが再び地中から掘り出されると、そのなかには嫌われ者の死体が転がっていたのです。大マジックを見ているかのようなトリックです。

The Problem of the Old Oak Tree
古い樫の木の謎

映画のワン・シーンを撮影するために俳優とその代役の二人が飛行機に乗り込みます。代役は空に舞った飛行機から中から演出通りにパラシュートで飛び降ります。しかし着地に失敗したため、サム医師以下数名が駆けつけると、代役は針金で首を絞められ死亡していたのです。結末はまさに意表をついた着地を見せます。

The Long Way Down
長い墜落
(原書未収録)

会社の合併を重役会議で発表するために飛行機で会社に向かっていた社長が、会社に着くとすぐ21階にある会議室に入り、その窓から飛び降りてしまいます。社員があわてて地上に向かいますが、社長が落ちてきた形跡がありません。そして、それから4時間近くも経ったのち、社長が地面に落下してきたのです。これぞ究極の人間消失物、伏線もいっぱい張ってあり、短編とは思えない充足感が得られます。非サム・ホーソーン物です。