Crippen & Landru
Limited Edition (250/350)
1st edition in USA
Who Killed Father Christmas?
and Other Unseasonable Demises

パトリシア・モイーズ
Patricia Moyes


1996

★★★

収録短編

Deadlock
ソロモンとミンク
(『EQ』1980年3月号)

宝石盗難事件の捜査のために駅で見張りをしていたブラックブッシュ元部長刑事のもとへ、口論しながら二人の女性が近寄ってきます。汽車のなかで同じ車室だった二人は、ひとつのミンクのコートをめぐり自分の物だと主張し合っているのです。警察署で事情を聞いたブラックブッシュはコートを半分に切って平等に二人に分けることを提案します。女性の視点から描かれたEQMM誌初登場の短編です。

A Suitable Revenge

ハーバート・スプロットは幼い頃より姉にいじめられ、両親が亡くなった現在そのいじめはさらにひどくなっていました。そんなハーバートはギャンブルの借金が増えたため、遺産相続といじめからの解放の一石二鳥を求めて、姉の殺害を計画します。それは彼女に睡眠薬を飲ませ、部屋のガス栓を開けっ放しにするというものでしたが――。いじめられる立場にいる人間の哀しい物語です。

A Man Without Papers

国際難民会議に出席するためにスイスのジュネーブに来ていたアーサー・ヴィンセント・ホームズ氏は、気分転換にレンタカーでフランスへドライブしようとします。ところが煙草を買うために降りたパーキングで車を乗り間違えてしまったために、パスポートを始め荷物全てを紛失してしまいます。そのためホームズ氏は国境の憲兵から怪しまれ、ついには拘束されてしまいます。人の不幸を題材にして物語を展開させながらも、最後には読む人全てを幸せにしてくれます。

Love at Second Sight
ふた目惚れ
(『ハヤカワ・ミステリマガジン』1988年12月号)

小さな輸出入会社に勤めるブライディがある夜見た夢は、近く行われる競馬のある出走馬を連想するものでした。実際にその馬が勝ったことを知った会社の同僚は、ブライディが前夜見た夢を毎日聞き出すようになります。連戦連勝で図に乗ってしまった同僚は、ついにある頼みごとをしてしまいます。本短編集で一番コミカルな作品です

The Most Hated Man in London

ロンドンで最も憎まれていた恐喝屋が自身のオフィスで頭を殴られ殺されます。その部屋へ入るにはジョージ・ポッツという男に見張られたドアを通るしかなく、その日部屋に入ったのはたった三人でした。その三人とも被害者から恐喝されており、動機は申し分ありませんでした。時間経過から真犯人が推理されます。

A Young Man Called Smith
スミスという名の青年
(『ハヤカワ・ミステリマガジン』1987年4月号)

マージーとスーの姉妹が別荘で暮らしていると、マージーの夫トムに招かれたと言ってスミスと名乗る男が訪ねてきます。後日同じスミスという名の全く別の男が現れ、またもやトムの招きで来たと言います。みすぼらしい姿のスミス氏と立派な身なりをしたスミス氏、一体どちらが本物なのか?サスペンス・ストーリーでありながら意外なハッピー・エンドを迎えます。

Who Killed Father Christmas?
サンタを殺したのは誰?
(『新・読者への挑戦』ハヤカワ・ミステリ文庫)

ロンドンのバーナム・アンド・スラムズ百貨店ではクリスマス恒例行事としてサンタクロースが子供にプレゼントを配る催しを行なっていました。そのサンタクロースが子供を待ち受ける部屋で何者かに刺殺されます。しかもその殺されたサンタは麻薬密売を摘発しようとしていた警察官だったのです。テンポ良く話が進んだ末にサプライズド・エンディングが待っています。

Beyond the Reef

アリシア・ホークスワースは経営難に陥ったホテルを立て直すには、亡き夫の伯母でありホテルの出資者でもあるアリカ・ホークスワースの遺産を手に入れるしかないと考えていました。しかしアリカ・ホークスワースのもう一人の甥に突然子供が生まれ、アリカはその子に財産の大半を残そうとします。書き換えた遺書を目撃したアリシアは現在の恋人であるホテルのマネージャーとともに遺書の破棄とアリカの殺害を計画します。もうひとひねり欲しいです。

A Whispering in the Reeds

事故で亡くなった妻の遺産を使い切り、貧しい生活を送っていたアーサーに救済の手を差し伸べたのは旧友のレジーでした。レジーはアーサーに美人モデルのルイーズと結婚をさせ、二人の家を買う資金も提供します。しかし一方ではレジーはアパートを借りて、ルイーズとの密会の場をつくります。この奇妙な三角関係に終止符が打たれたのは、アーサーの先妻が死んだ時と全く同じ状況でルイーズが死んだからでした。見事に裏の裏をかかれます。

A Matter of Succession

まだ20代前半のグロリアは55歳になったジョージに結婚をせまると同時に伯爵夫人の爵位を得たいと言います。しかしジョージには2つ年上の兄ジェームズがいるため、グロリアが伯爵夫人になるためには、ジェームスが死んでジョージが爵位を継がなければなりませんでした。ある日ジェームスと喧嘩をしたジョージは、ジェームズがこれから航海に出る船に細工をして事故を起こそうとします。練りに練った完全犯罪が披露されます。

Hit and Run
轢き逃げ
(『EQ』1995年9月号)

小さな田舎の病院に勤める医師ロジャー・アシュバーンの妻が家出をしてしまいます。一ヶ月経っても妻が帰ってこないため、ロジャーは町を離れて大きな病院へ転勤することを決意します。そして数ヶ月後、轢き逃げされた女性の死体がロジャーの病院に運ばれてきますが、なんとその女性は家出をしたロジャーの妻だったのです。ショート・ショートでありながら計画犯罪をうまく扱っています。

The Honest Blackmailer
正直な恐喝屋
(『EQ』1997年9月号)

ハリー・ベッセマーは警察や私立探偵社で勤めた経験を利用して人の弱みを探り出し、それをもとに恐喝を行なっていました。財政状態が悪化してきたハリーは、彼が恐喝している下院議員を呼び出し、支払額を三倍にするよう求めます。ブラックなエンディングを迎えるショート・ショートです。

The Small Train Robbery
小列車強盗
(『クリスマスに捧げるミステリー』光文社文庫)

クリスマスを一週間後に控えたロンドンの店のおもちゃ売場でスローン氏とペティグルー氏は偶然出会います。そして二人は息子へのプレゼントとして同じおもちゃの機関車を購入しました。その後偶然にも同じスイスのスキー場へ旅行していた両家族でしたが、帰りのロンドン空港でスローン氏の息子が機関車が入れ替わったと言い出します。最後に二組の家族が明暗を分けます。

A Lonely Profession
孤独な職業
(『EQ』1983年5月号)

<経営コンサルタント H・ド・クインシー・フェザーストーン>という名で職業的な殺し屋を営んでいた人物のもとへスミスという名の紳士が現れ、さる中東国の大統領を暗殺するよう求めます。政治的暗殺は断る方針だった殺し屋でしたが、自身の私生活をスミス氏に知られていたために渋々引き受けることにしました。予想もつかないショッキングな事実がラストに用意されています。

Faces of Betrayal

ジオフリーとアーレットの夫妻はアメリカ政府中枢部で働くロシアのスパイでした。ある日、西ドイツの政治家の写真を撮るよう指令を受けたアーレットは息子のクリストファーとともに実行にうつそうとします。しかしその政治家の乗った車が突然爆発し、その爆発によってクリストファーは死んでしまいます。本短編集のなかで唯一政治を題材にした異色の作品です。

The Faithful Cat
替え玉
(『ネコ好きに捧げるミステリー』光文社文庫)

自身の借金返済のため妻の莫大な資産が欲しい夫は、妻を精神錯乱に陥れ資産管理の権利を手に入れようと考えました。そして彼は妻の愛する猫を殺すことを企てます。著者の猫好きが伺い知れる作品です。

Flowers of the Dead
死者の花
(『EQ』1992年1月号)

小さな村にある通称<シーダーズ>屋敷に、作家のブリストウ氏とその妻が住み始めます。ブリストウ氏当人は何人もの村人が目撃していましたが、ブリストウ夫人を見かけた人はいませんでした。ある日郵便配達夫が窓越しに一人の女性を見たと触れ回ったので、教区牧師が事実を確認しようと<シーダーズ>屋敷を訪ねると、ブリストウ氏はここには一人で住んでいると言い出します。謎解きのおもしろさが無いのが残念です。

The Extra Mile
懺悔
(『EQ』1989年7月号)

ロバート・フォスダイクとシドニー・ホワイトは同じ会社に勤める部長と会計主任でした。お互いとも金銭に困っていることを知った二人は会社の金を横領する計画を立てます。万事うまく行っていたある日、ホワイトが突然宗教に目覚め、悪事の全てを会社にばらすと言い出します。露見を防ぐためのドタバタ劇がユーモラスです。

The Man Who Had Everything
すべてを持っていた男
(『13のダイヤモンド』ハヤカワ・ポケットミステリ)

億万長者のハーベイ・バーリントンは53歳で仕事を引退して、妻のジェニーとともに気ままな余生を送ろうとしていました。そんなハーベイの前にサマンサという若い女性が現れます。ハーベイとサマンサは恋に落ち、ハーベイはジェニーに離婚の申し出をします。しかしあっさり断られたため、ハーベイはジェニーの殺害計画をたてます。金は持てども、人の心を判り得なかった哀しい男の話です。

Family Christmas
ファミリー・クリスマス
(『サンタクロースにご用心』扶桑社文庫)

ロバートとメアリーは二組の娘夫婦たちと一緒にクリスマスを過す予定にしていました。しかし両夫婦とも金銭に困っていることを知るロバートは、二人の娘婿どちらかに遺産目当てに毒殺されるのではないかと恐れていました。そしてクリスマス当日、ロバートは本当に死んでしまいます。クリスマスの雰囲気がこの物語の哀しさを増幅させます。

The Holly Wreath
娘がさらわれた
(『ハヤカワ・ミステリマガジン』1985年1月号・2月号)

スチーブンとマーガレット夫婦の一人娘エマが誘拐されます。二人は現在離婚協議中で別居していましたが、この緊急事態にとりあえず力を合わせることとしました。身代金として現金1万ポンドを用意した夫婦は、犯人から受け渡しに指定された劇場へと向かいます。クリスマスらしく心暖まるエンディングを迎えます。