Karmesin
The World's Greatest Criminal--
or Most Outrageous Liar


「犯罪王 カームジン」
あるいは世界一の大ぼら吹き

ジェラルド・カーシュ

2003

★★★
角川書店
駒月雅子訳
Crippen&Landru
1st US Edition

収録短編

Karmesin
カームジンの銀行泥棒(『廃墟の歌声』)

カームジンはある銀行の当座預金口座に三千ポンドを預けていました。カームジンはその銀行を訪れ、二千ポンドの現金を差し出し、近々取引先が小切手持って五千ポンドおろしにくるので、質問や紹介は無しで即刻現金に換えて欲しいと依頼します。カームジンのデビュー作。「盤上の悪魔」に出てきたブストのアパートが再登場します。

Karmesin and the Meter
詐欺師カルメジン
(『ミニ・ミステリ傑作選』)

私が一ペニー銅貨を切らしたためにガス・コンロを使えず寒い思いをしていると、カームジンはお金を払わずにガスを手に入れる方法があると言い出します。カームジンはそれでけでなく、ガス会社から一万フランを手に入れたとまで言うのです。かつて密室トリックに使われた手法でカームジンはお金を手に入れます。

Karmesin and Human Vanity
カーミジンの偽札騒動
(『詐欺師ミステリー傑作選』)

カームジンはメドヴェッドというペテン師を騙して十万フラン巻き上げた話を始めます。ある日カームジンは五百フラン札を一枚出して、メドヴェッドに見せます。メドヴェッドは本物だと主張しますが、カームジンは偽物だと答えます。それを信じたメドヴェッドはカームジンが作った偽札製造装置を買いたいと申し出るのです。カームジンのあまりに滑稽な芝居に思わず笑っちゃいます。

Karmesin and the Tailor's Dummy

カームジンは毎夜通っていたパリのカフェで、フレデリック・カシスという身なりのいい銀行員と知り合います。カシスは勤め先の銀行から金を盗み、アメリカでの生活を企んでいましたが、追跡を恐れて実行に移せずにいました。そこでカームジンは金を盗んでも起訴されない方法をカシスに教えるのです。カームジンがかつて弁護士だったという法螺話です。

Karmesin and the Big Flea

フランス警察のクラパウドがドイツ大使のフォン・エバーハートを強請ろうとしていたため、カームジンはクラパウドの部屋に侵入し、強請りの証拠写真を撮って、それをネタにクラパウドを逆に強請ろうします。写真はうまく取れたものの、カームジンが去った後にクラパウドの部屋に泥棒が侵入したらしく、カームジンはその犯人扱いされてしまいます。強請りの連鎖で勝ち残ったのはやはりカームジンでした。

Karmesin and the Raving Lunatic
カームジンの宝石泥棒
(『廃墟の歌声』)

カームジンは二万ポンドのダイヤのネックレスと五千ポンドのエメラルドを盗む計画を立てます。まず精神科医のトロッツ博士を訪れ、弟が宝石と聞くと暴れ出すので治療して欲しいと伝えます。次にダイヤとエメラルドを売る宝石商を訪れ、自分はトロッツ博士だと名乗り、婚約者の贈り物としてダイヤのネックレスとエメラルドを買いたいと告げるのです。ダイヤを盗んでおきながら煙草を買う金もないのが滑稽です。

Karmesin and the Unbeliever
カームジンとあの世を信じない男(『廃墟の歌声』)

カームジンが海辺でうたた寝をしていると、ひとりの従僕らしき男が現れ、自分は主人を殺して屋敷を相続したと明かし、そのまま絶壁から身を投げます。カームジンがそのことを町で話すと、みな笑ってそれは小ヘンリーという十三年前に死んだ従僕の幽霊だと説明するのです。そこでカームジンはこの幽霊と組んで一儲けしようと企みます。これぞ正に史上最大のほらでしょう。

Inscrutable Providence

あるフランスの政治家の妻がスコベレフという男から恐喝され、カームジンに助けを求めてきます。スコベレフは二万ポンド払わなければ、政治家の妻から受け取った手紙を公表すると脅したのでした。カームジンはスコベレフの部屋に侵入して手紙を奪い返しますが、その非道さに立腹し、スコベレフ殺害の計画を立てるのです。カームジンが人を殺そうとする驚きの作品です。

Karmesin and the Invisible Millionaire

サックバットという女好きの金持ちがトゥインクルトー夫人と一緒のところを目撃された末、執達吏に囲まれてシカゴのホテルから抜け出せなくなります。サックバットから救出の依頼を受けたカームジンの前に突然従僕の幽霊ヘンリーが救世主のように現れます。幽霊の手を借りればなんでもできます。

Karmesin and the Gorgeous Robes

ある女性から依頼され、カームジンはポットデヴィンという骨董品屋を懲らしめることになります。ポットデヴィンの店にはかつてマレー君主が着ていた絢爛豪華なローブが売られており、カームジンはそれを買い求めるふりをして店を訪れます。その日カームジンは五千フランの手付金を置いて去り、翌日再び訪れてポットデヴィンにローブの試着をさせ、その隙にカームジンの連れが拳銃をポットデヴィンに突きつけるのです。依頼主の女性がカームジンを危機一髪で救います。

Chickenfeed for Karmesin

バルカン諸国のある名士が政府からライフル購入の命を受けパリに来ていました。ところがその名士は政府から預かった四十万ポンドの現金のうち十万ポンドを使ってしまい、三十万ポンドで四十万ポンド相当のライフルを購入する術がないかとカームジンに相談してきます。はした金を捨てて結果的に大金を手に入れるカームジンの美談です。

The Thief Who Played Dead
彫像になった泥棒
(『EQMM』1961年2月号)

カームジンはスリー三世という金持ちの収集家から、詩人エドマンド・スペンサーの墓地に埋蔵されたウイリアム・シェイクスピアの追悼の詩の現物を持ってくれば二百万ドル渡すという取引を持ちかけられます。そこでカームジンは墓地修理の職人に化けてスペンサーの墓地に忍び込みます。カームジンが体をはった仕事をする、ちょっと変わったシーンが出てきます。

The Conscience of Karmesin

自称王様のトムボーラという男が英国王冠を持ってくれば七百万ドル出すと言うので、カームジンはその王冠略奪を企てます。カームジンは王冠が保管されている建物の電気の供給を断ち、警備員に扮して王冠に近づき、まんまと盗み出すことに成功します。ところがその翌日イギリスがドイツに宣戦布告するのです。ルパンもビックリするカームジンの大工作です。

Karmesin and the Royalties

カームジンは出版社に勤める知人から本を書けば儲かると言われ、『五百万ポンドを盗んだ男』と題して、これまで行なってきた数々の盗み話を梗概としてまとめます。それをイギリスじゅうの出版社に送りつけたのですが、どの出版社も少額のオファーしかしてきませんでした。著者の皮肉が込められているような作品です。

Skate's Eyeball

これまで一度も捕まったことのない詐欺師カーファックスは二百万ポンドを超える財産を所有しながらも、ある悩みを持っていました。国税局がカーファックスの財産を狙っているのです。そこで相談を受けたカームジンはカーファックスの財産をアメリカへ移す提案をします。詐欺師は詐欺師に騙されます。

Oalamaoa
重ね着した名画
(『廃墟の歌声』)

画家モロッソはオリジナルの絵を描くことは苦手でしたが、有名画家のタッチを真似て絵を描くことは得意としていました。モロッソがゴーギャンを真似て描いた絵を見たカームジンは、それを使って大金を稼ぐアイデアを思いつきます。美術コレクターにゴーギャンの絵として売りさばこうとするのです。一つの贋絵を次々と転売し、その都度嘘を重ねるカームジンが滑稽でなりません。

The Karmesin Affair
カームジンと『ハムレット』の台本
(『壜の中の手記』)

カームジンは友人のサー・マシー・ジョイスから金策のために自身の蔵書を売り払おうとしていると聞かされ、ジョイスに代わって買い主との商談を頼まれます。カームジンはシェイクスピア=フランシス・ベーコンと信じている買い主を騙そうと、筆跡模写のうまい知人に『ハムレット』の台本にベーコンの筆跡を真似た書き込みをさせ、その台本をさりげなくジョイスの蔵書棚に戻しておいたのです。ラストの落ちが光る騙しの物語。

(以下は翻訳書のみ掲載)

Prophet Without Honor
埋もれた予言

ニューヨークにある新聞社の夜間編集長ボヘムンド・レイモンドは、酒を飲むと謎めいた予言をし、それが現実に起きるという不思議な能力を持っていました。

A Lucky Day for the Boar
イノシシの幸運日

ある公爵の甥が謀反の罪で逮捕され、独房のなかで時間の感覚を失わせるよう仕組まれます。それを聞いた公爵は…。

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