Crippen & Landru
Cloth Edition (200 copies)
1st edition in USA
Murder, Mystery and Malone

クレイグ・ライス
Craig Rice


2002

★★★

収録短編

Wry Highball
飲んであの世へ
(『EQMM』1959年8月号)

二週間前に父親の遺産を相続し大金持ちになった若者アーサー・ベントが、砒素入りのハイボールを飲んで死亡します。その時彼と一緒にいたのはシーラ・マンスンとメイ・アモンの二人の女性だけで、二人とも相手が犯人だと主張します。実は両人とも被害者のアーサー・ベントから結婚を申し込まれており、殺人を犯す動機は見当たりませんでした。二人の美女の板挟みに合い困惑したマローンがとても可愛いいです。

The Frightened Millionaire
怯えた百万長者
(『ミステリマガジン』1983年12月号)

マローンの秘書マギーの自宅で、水兵の格好をした見知らぬ男が死んでいるのを家人が発見します。大事にならぬように処理しようとしたマローンでしたが、死んだ男が現在引き受けている交通事故訴訟の貴重な目撃者だと警察から知らされ、否応なしに巻き込まれていきます。マローンを驚かすマギーの機転が魅力的な中篇です。

Shot in the Dark

マローンとモデルのドリー・ダウが車をとめて夜景を眺めていると、突然道路脇の茂みから男が現れ、「バイオレットが殺された!」と助けを求めて来ます。マローンが茂みの向こうを調べに行くと、ひとりの女性が撃ち殺されており、あたりには彼女の所持品が散乱していました。マローンに助けを求めてきたのは被害者の婚約者で、被害者の所有していた宝石売買をめぐって先程まで別の男が車に同乗していたと証言します。警察官にはなりたくなかったとぼやくフォン・フラナガン警部と、デートの続きをしたくてたまらないマローンの苛立ちが可笑しくてたまりません。

Say It With Flowers
手向けの花
(『EQ』1997年9月号)

ハバナ旅行を明日に控えたマローンのもとへ一人の女性が現れ、失踪した叔父を探して欲しいと懇願します。ハバナのことで頭がいっぱいだったマローンはこの捜索に乗り気ではありませんでしたが、依頼主の女性が警視総監の義理の姪だとフラナガン警部から知らされ、一日だけの努力をすることを決めます。読めばわかる洒落たタイトルが気に入りました。

How Now, Ophelia
どうした、オフィーリアよ
(『ミステリマガジン』1991年5月号)

私立探偵メルヴィル・フェアはジェシー・キャタモール氏から娘のルシアが犯そうとしている殺人を未然に防いで欲しいと頼まれます。精神異常をきたした娘ルシアが酒飲みでろくでなしの夫バートレー・キャノンを殺しかねないと言うのです。しかし殺人はメルヴィル・フェアの目の前で実際に起きてしまいます。マローン物とは全く違い、本格色を前面に打ち出したマイケル・ヴェニング名義の傑作です。

Death in the Moonlight
月明かりの死
(『ミステリマガジン』1996年7月号)

心臓を患っており、決して一人では出歩くことのなかった元女優ロザリー・ケインが自宅近くの草原で死んでいるのが発見されます。家族の誰かが一緒に散歩に出かけ、ロザリーの病状が突然悪くなったにもかかわらず、救いの手を差し伸べなかったのです。犯人は夫か息子か娘か?最後にメルヴィル・フェアは静かに犯人の名を告げます。果たして幸せという凶器は存在するのか?著者がミステリ・コレクタのネッド・ガイモン氏から借りたローンの担保にされたという美しい作品です。

Beyond the Shadow of a Dream
夢の影より
(『EQMM』1960年2月号)

精神病学者のマーティン・A・マーティンがマローンに相談してきたのは、彼の患者であるジョン・エバーツがこれまで何度も人を殺す夢を見てはその通りの事が現実に起きているという奇妙な事実と、今度エバーツが見た夢はマーティン自身を殺すというものだったのです。信じられずにいたマローンを打ちのめすように、マーティンが夢の通りに殺害されます。そしてエバーツまでも拳銃で撃たれて殺害されていたのです。「そして明日は昨日になる」という粋な言葉から真相を見抜くマローンが実にかっこいいです。

One More Clue
もうひとつの手掛かりが
(『年刊推理小説ベスト10』1960年)

犯罪実話作家のアルヴィン・ブレックが自室でガス中毒によって死亡します。部屋にあった窓とドアは全てなかから鍵がかかっており、警察は自殺と断定しますが、婚約者のヘレン・コンネルはそれを信じず、マローンに助けを求めてきます。クレイグ・ライスが密室に挑んだ珍しい作品です。

They're Trying to Kill Me
誰かが私を狙っている(『ミステリマガジン』2012年5月号)

ロドニー・メルシャーと名乗る男がマローンを訪れ、今にも殺されそうなので助けて欲しいと懇願します。飲もうとしたアスピリンに砒素が混入されていたり、風呂場にあったラジオが落ちてきて感電死しそうになったとロドニーは言うのです。そしてロドニーを帰宅させてしばらくした後、フォン・フラナガン警部がマローンに電話をかけてきて、ロドニー・メルシャーに兄殺害の容疑がかかっていると告げるのです。クレイグ・ライスが最後に書いた作品のひとつである本編は、マローンが名探偵となる本格物です。

No, Not Like Yesterday
マローン預言者になる
(『ミステリマガジン』1984年6月号)

暗黒街の大物の葬儀中、マローンはフォン・フラナガン警部に「今夜誰かがアフリカ製の投げ槍で殺される」という予言めいた言葉を投げかけます。そしてその予言通り、もうひとりの暗黒街の大物ロバート・P・スウェイルがアフリカ製の投げ槍で背中を刺されて殺されるのです。マローンと同じくらい事件に興味を持ち、マローンに事件解決のヒントを与えるモデルのドリー・ダウがとても愛らしいです。

Hard Sell
セールスマン殺し
(『年刊推理小説ベスト10』1963年)

雑誌訪問販売を行っているガンダーソン社のセールスマンが次々と死亡する事件が発生します。一人目は車にはねられ、二人目はエレベーター室への転落、三人目は列車にひかれ、四人目は銃で頭を撃ちぬかれたのです。社長のフランク・ガンダーソンから捜査の依頼を受けたマローンはライバル会社を訪れてみますが……。動機が切なく、気遣うマローンが真実を葬り去ろうとします。

The Dead Undertaker
お葬いは大騒ぎ
(『マンハント』1959年1月号)

選挙で死者の名前が使われる詐欺事件が発生し、マローンはその名前が書かれたリストをある人物から1000ドルの手数料とともに受け取ることになりました。多数の観客が見守るマーチングバンド・パレードの最中に、ある曲を合図にして赤ら顔で金歯のバンドパレード・メンバーがマローンに路上で手渡すことになっていましたが、その曲が始まるや否や、別の女性バンドも演奏を始めてしまい、マローンを始めとする周囲の人々がそれに気を取られた瞬間に金歯の男が銃で撃たれて死亡してしまいます。会話文をあまり使わず、事件の状況をじっくり描写した異質な作品です。