Crippen & Landru
Pamphlet
1st edition in USA
Room To Let

マージェリー・アリンガム
Margery Allingham


1999

★★★★

収録短編

Room To Let (A Radio-Play)

車椅子生活を送るマスグレーヴ夫人とその二人の娘モリーとアリスが住む家で,チャールズと名乗る医者が部屋を借りて住み始めます。当初は紳士に見えたチャールズでしたが、次第に怪しげな行動を取り始めます。恐くなった三人はチャールズに出て行くよう求めますが、彼はそれに応じません。そしてマスグレーヴ夫人とチャールズが家で二人きりになったある日、夫人はチャールズの部屋から銃声を聞きます。その部屋は内側から鍵のかけられた完全な密室になっており、なかではチャールズが眉間を銃で撃たれ殺害されていたのです。

1947年11月12日、イギリスBBCで放送されたラジオの台本をCrippen&Landru社が顧客のクリスマス・プレゼント用として限定出版したものです。わずか25ページからなる小冊子なのですが、赤い紐で綴じられていたり、カバーの表にはサンタクロースとトナカイ、裏には同社から出版された全タイトルがツリーの形状で記載されているなど、クリスマスの雰囲気たっぷりな装丁となっています。

この物語は、November Clubという世界中の名探偵が一同に会する年に一度の夕食会で、未解決の事件のひとつとして紹介されるところから始まります。アガサ・クリスティーの『火曜クラブ』やアイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』のように、事件のあらましを聞いた一人が真相を言い当てるという形式をとっています。その探偵役となるのがJ・J・ジョーンズという人物で、過去に一度も失敗を犯したことが無いと豪語するNovember Clubの一員です。話を聞き終わったJ・J・ジョーンズが事件の語り手の盲点をつくところが見せ場となっており、さらに夕食会の場では一点だけ解けない謎を残しながら実はその真相も見抜いていたという洒落た終わり方にもなっています。「切り裂きジャック」を意識したストーリーは実に巧妙に練り上げられており、ラジオ台本で終わらせるにはもったいない作品です。