Crippen & Landru
Cloth Edition
1st edition in USA
The Complete Curious Mr. Tattant

C・デイリー・キング
C. Daly King


2003

★★★

収録短編

The Episode of the Codex' Curse
古写本の呪い

約700年前に書かれたと思われる古写本が発見されます。しかし本書を所有する古美術商は、記述者の呪いによって3日後である今日の夜に本は消え失せるだろうと予言します。これを信じないジェリーは100ドルを賭けて本の見張り番を引き受けます。そしてその夜、外から鍵のかけられた密室内でジェリーが見張っていたにもかかわらず閃光とともに本は消え失せたのです。とにかく驚愕のエンディングです。不可能犯罪のトリックといい、犯人の正体といい、ミステリとして申し分ありません。ジェリーとタラントが出会う事件でもあります。

The Episode of the Tangible Illusion
現れれる幽霊

ジェリーはヴァレリーに結婚を申し出ますが、彼女自身の悩みを理由に断られます。その悩みとは精神的なものであり、現在医者に来てもらって治療中だとヴァレリーは語ります。ある日彼女が何かに怯えていたので、ジェリーは徹夜で付き添う事を約束します。その夜ヴァレリーが階段から突き落とされたり、ジェリーが何者かの足音を聞いたりしますが、家の中には二人以外誰もいませんでした。まるでマジックの種明かしを知らされるような結末で、特に階段落ちのトリックは素晴らしいアイデアです。

The Episode of the Nail and the Requiem
釘と鎮魂曲

タラントの住むアパートの屋上にあるペントハウスで、若い女性が胸を短刀で刺され死体となって発見されます。ペントハウスは完全な密室状態であり、犯人の姿は見当たりません。部屋には被害者を描いたと思われる絵が残されており、その絵の女性の胸にも釘が刺さっていました。導入部の謎は飛び切り興味を引きますが、結末はさほど驚きません。

The Episode of "Torment IV"
「第四の拷問」

船の中から忽然と人が消える話をタラントがすると、彼の友人は全く同じような事が近くの湖でもあったと話し始めます。湖で親子三人が乗っていたボートが座礁し、すぐに救助が駆けつけましたが、ボート内には人の気配がありません。後に両親の死体が湖から発見され、彼らがボートから飛び降りたことが判明しましたが、飛び込んだ理由は不明のままでした。更にこの話を聞いた直後、タラントたちの目の前で、このボートを引き継いだ親子が、全く同じように、ボートから湖に飛び込み亡くなる事故が起きます。タラントが原因を解明すべく、ボートに一人で乗る場面が迫力満点で手に汗握ります。なおこの事件から語り手のジェリーとヴァレリーは夫婦になっています。

The Episode of the Headless Horrors
首無しの恐怖

国道48号線の路上で首無し男性死体が発見されます。警察は懸命に捜査をしましたが、手がかりはおろか首すらも発見することができない。その5日後、同じ48号線で今度は女性の首無し死体が発見されます。更に犠牲者は増え続けますが、被害者に関連性は全く見られませんでした。興味を持ったタラントは、ジェリー夫婦の家に宿泊し、自らの意志で警察の捜査に加わります。結末を知ると、ノン・フィクションかのように思えゾッとします。

The Episode of the Vanishing Harp
消えた竪琴

ドナテッリ・デイブンは紀元前から先祖代々に伝わる竪琴の保管義務を背負っていました。それはドナテッリのみが入り方を知る特別な書斎の中に厳重に保管されていました。しかしその竪琴が、ある日忽然と消失します。調査を請け負ったタラントが屋敷に向かうと、ドナテッリが現れ、竪琴がいつのまにか元に戻っていると言います。しかしその直後、タラントたちの目の前で竪琴は再び消失します。竪琴の紛失トリックはおもしろみに欠けますが、過去の予言を巧みに取り込んだプロットは楽しめます。

The Episode of the Man with Three Eyes
三つ眼が通る

ジェリーたちはタラントのアパートを訊ねた際、執事のカトーが本物のスパイであることを聞かされます。カトーはその活動のために現在外出中で、腹の空いたタラントたちはボルシチ料理を食べにレストランへ行くことにしました。そして彼らはその店内で女性の悲鳴とともにカトーが逃げ出そうとするのを目撃します。その後女性は刺殺されていることが判り、カトーは容疑者として警察に連れて行かれます。事件は、容疑者と被害者の両スパイ行動に焦点を当てながら、実に意外な結末へと展開します。

The Episode of the Final Bargain
最後の取引

ジェリーの妹メアリが、車でタラントをアパートまで送ろうとしている最中に、突然声が出なくなり体が麻痺してしまいます。タラントは急遽メアリを病院に連れて行き医師に診断してもらうが、外傷や異常値は見られず、原因を突き止める事が出来ません。様態は悪化するばかりで、後は死を待つだけのメアリを救うには、謎の人物オール氏の協力を得るしかないとタラントは判断しました。これまでの7作に織り込められたエピソードをもとに作られた、まさに本短編集の集大成ともいうべき作品です。不可思議な状態を不可思議な方法で解こうとするため少し難解ですが、それまでクールなイメージだったタラントが、並々ならぬ熱意をもってメアリを救おうとする姿勢が胸を打ちます。

The Episode of the Little Girl Who Wasn't There
消えた美人スター
(『世界ベスト・ミステリー50選/上』)

ハリウッドの女優グロリア・グラマリスのもとに、誘拐を示唆する脅迫状が届きます。それを受けて、家の中には2名、建物周辺には8名の探偵が配備されますが、グラマリスは自室から忽然と行方不明になってしまいます。完全な密室状態からどうやってグラマリスは消え去ったのか?密室の謎を論理的に解明して驚かせたかと思えば、さらにどんでん返しが用意されているという、飛び切り上等な短編ミステリです。

The Episode of the Sinister Invention

ある女性発明家が、ライヴァルだった男性発明家の家で殺されているのが発見されます。二人は全く同じ発明をしており、敵対関係にありました。警察はこの男性発明家を一旦は逮捕しますが、女性発明家が出した一通の手紙がもとで保釈せざるを得なくなります。彼女が殺されたと思える時間、彼には鉄壁のアリバイがあったのです。キングの作品で唯一のアリバイ崩し物です。たった一つの些細な出来事によって真実を見抜くタラントに感嘆します。

The Episode of the Absent Fish
タラント氏の釣果
(『EQ 1981年11月号』)

新聞社を経営している富豪が脅迫されていることを知ったタラントはジェリーをその警護につかせていました。富豪が一人で屋上のテラスに居たいとの申し出を受けて、ジェリーはテラスへ上がるエレベーターの前で待っていましたが、2時間たっても降りてこないので不審に思いテラスへ出てみると、富豪は後頭部を殴られ死んでいました。屋上という密室での殺人を扱った風変わりな作品です。

The Episode of the Perilous Talisman
危険なタリスマン
(『これが密室だ』)

エジプト遺跡から見つかったタリスマンと呼ばれる呪いの箱があり、箱を開けた者は必ず死ぬという不思議な事実がありました。呪いを恐れた現在の箱の所有者である政治家は、タラントのもとに来て鑑定してほしいともちかけます。本作品は『せんさく好きなタラント氏』の最後の短編「The Episode of the Final Bargain」で、苦渋の決断の上アメリカを離れたタラントが、7年経って帰ってきた後の話です。非常に珍しい真相が用意されており、不可思議さを増して終る感があります。

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