A Dram of Poison

「毒薬の小壜」


シャーロット・アームストロング


1956

★★★
ハヤカワ・ミステリ文庫
小笠原豊樹訳

 ケネス・ギブソン氏は55歳にして独身の詩の教師でした。ある日ギブソン氏は若くて病弱なローズマリーと出会い、二人は結婚します。幸せな結婚生活を送っていた二人でしたが、自動車事故をきっかけに二人の関係に暗雲が立ち込め始めます。事故の後遺症で足が不自由になったギブソン氏は、妻のローズマリーが隣人のポール・タウンゼンドと不倫をしていると信じ込み、毒を飲んで自殺を図ろうとします。しかし毒を入れた小壜をどこかに紛失してしまったギブソン氏は、他人がそれを間違って飲んで死亡することを恐れ、妻やタウンゼントに全てを明かし、全員で小壜探しを始めます。

 1959年度のアメリカ・ミステリ作家協会(MWA)最優秀長編賞受賞作です。クイーンやカー、スタウトなどの黄金時代が終焉を迎えたアメリカで、サスペンスやハードボイルドの人気が広がり始めますが、その頃のサスペンス物の代表作とも言えるのが本書『毒薬の小壜』です。「善意のサスペンス」と表現されるように、死や暴力などの悪意は存在せず、紛失した小壜が一体どこにあるのかに焦点を置いて書き綴られています。前半をギブソン氏の心の動きを中心に描いた「静」とすると、後半は小壜探しに奔走する「動」であり、サスペンスとしてのおもしろさが充満しています。大きなどんでん返しを期待すると裏切られますが、小壜の在処が判明するエンディングまでの突き進むような展開は読者を夢中にさせます。

 結構気に入ったので一部引用します。

「たとえ、過ちのなかに向上があり、罪のなかに責任があり、無知のなかに希望があり――人生のなかに驚きがあり――運命に欠陥があるとしても――それでも、無邪気にオリーブ油のラベルの貼ってある、死の詰まった小壜を、かれらをまだ手に入れていないのである。そのことは決して錯覚ではない。」
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