A Nice Derangement of Epitaphs

「納骨堂の多すぎた死体」

エリス・ピーターズ


1965

★★★★
原書房
武藤崇恵訳

 18世紀半ばに死んだ大地主ジャン・トレヴェッツラの詩を探し出すために、彼と彼の妻の棺が安置された納骨堂に入り、200年振りに棺を開けることになりました。ところが棺のなかにジャン・トレヴェッツラの死体は無く、代わりに数日前から行方不明になっていた現在のトレヴェッツラ家の庭師と死後数年たった正体不明の男のふたつの死体が発見されたのです。休暇でこの地を訪れていた州警察警部ジョージ・フェルス一家は偶然にもこの事件に巻き込まれ、地元警察と共にこの不思議な遺体の謎に挑みます。

 読んで心が暖まるミステリに久しぶりに出会った気がします。殺人事件につきものの冷たい雰囲気は最小限に抑えられ、人々の心の動きを中心に物語は展開していきます。家族とは何か、幸せとは何かをストレートに表現しており、少年たちの成長する過程や、それを見守る大人たちの姿が胸をうちます。途中、ミステリを読んでいるということを忘れ去るくらいですが、実は二重三重に絡んだ遺体の謎や意外な犯人が最後に待ち受ける本格ミステリなんです。まさにエリス・ピーターズの至芸です。

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