Cat's Paw

「猫の手」


ロジャー・スカーレット


1931

★★★
新樹社
村上和久訳

 ボストンの大富豪マーティン・グリーノウの誕生日を祝して、彼の邸宅には親類の甥達が勢揃いしていました。誕生日当日、マーティンは愛人兼家政婦のイーディス・ウォーデンと明後日に結婚することを発表します。これまで叔父の資金に頼ってきた甥達は遺言状が書き換えられることに動揺を隠せません。そして誕生日を祝して花火が打ち上げられている時間に、マーティンは何者かによって銃殺されてしまうのです。

 登場人物が個性的であれば、読む側も楽しく過せることを再認識させてくれる作品です。典型的な一族物ですが、この手の作品にありがちな没個性的なキャラクターは存在せず、ひとりひとりがきちんと描き分けられています。序盤、中盤とさほど大きな盛り上がりはありませんが、ラストに至って見事な仕掛花火が次から次へと打ち上げられます。犯人を明かすシーンも効果的で、本格好きにはたまらない仕掛けです。いい劇場に、いい役者が揃い、いい台本でいい演出をされている名芝居のようでした。

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