S. S. Murder

「死を招く航海」


パトリック・クェンティン


1933

★★★
新樹社
白須清美訳

 ニューヨークからリオへ向かう汽船モデルナ号のなかで、ブリッジに興じていた実業家アルフレッド・ランバートがカクテルを飲んだ直後に痙攣をし始め、そのまま死亡します。死因はストリキニーネによる毒死で、被害者と同じテーブルにいたロビンソンという男が事件直後から行方不明となっており、船内を隈なく探しても見つからないことから何者かが変装しロビンソンと名乗ってランバートに近づき殺害したもの考えられました。さらに数日後、亡くなったランバートの姪のベティが船から海に落ちて行方不明となる事故が発生します。そこにはまたしてもロビンソンの影があったのです。

 リチャード・ウィルソン・ウェッブとメアリー・ルイーズ・アズウェルの共著で本国ではQ・パトリック名義で出版されたのが本書です。作家ヴァンダインの頭文字でもある「S.S.」はSteam Shipの略で、タイトルは本文にもで出てくるように「汽船殺人号」を意味します。本文は若いコラムニストのメアリ・ルエリンが婚約者に宛てた何通もの書簡から成っており、「きゃあ、助けてダーリン!」的な軽さが殺人とは対称的で明るい雰囲気を作っています。29ページには「このページには決定的な手がかりが隠されています。」と大胆な読者への挑戦が挿入されており、いきなり本格ファンの心をくすぐります。その手がかりは決して見破られることはなく、結果的に著者への称賛と変わります。中盤まで誰が探偵役なのか判らないようになっており、それが誰かを想像するのも楽しみのひとつとなっています。最後に一同が会した場で探偵が犯人を名指しするのも本格好きにはたまりません。

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