The Case of the Gilded Fly

「金蝿」

エドマンド・クリスピン


1944

★★★
ハヤカワ・ポケットミステリ
加納秀夫訳

 オックスフォードにあるレパトリー劇場で、劇作家ロバート・ウォーナーの新作「詩作狂」が彼自身の演出で興行されようとしていました。その稽古中のある夜、一発の銃声が響き、階上でウォーナーらと会話をしていたオックスフォード大学のジャーヴァス・フェン教授が音のした部屋に駆けつけてみると、劇団で嫌われ者だった女優のイズー・ハスケルが額から血を流して死んでいたのです。フェン教授が現場に着くまではたった数分であり、部屋の外で通路の修理をしていた男も誰も部屋から出て行かなかった証言していることから、犯人の逃走経路が全く不明でした。

 エドマンド・クリスピンがオックスフォード大学在学中に書いた処女作で、崇拝していたと言われるジョン・ディクスン・カーばりの不可能犯罪を扱っています。全体的に荒削りですが、ミステリに取り組もうとしているその意欲は強く感じます。殺害トリックや伏線などはよく練られており、結末での意外性を十分に引き出していますが、犯人の動機と指輪の関係など今ひとつ判りづらい点もあります。それは、彼がミステリのなかに取り入れようとした戯曲や音楽などのイギリス文化が我々にはあまり馴染みで無かったからなのかもしれません。

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