Adventures of the Infallible Godahl

「怪盗ゴダールの冒険」


フレデリック・アーヴィング・アンダースン


1914

★★★
国書刊行会
駒瀬裕子訳

その手口は大胆にして繊細、自分の利益のためと言うよりも、盗むこと自体に喜びを感じている怪盗ゴダールの冒険譚です。


収録短編

百発百中のゴダール
−The Infallible Godahl−
作家オリヴァー・アーミストンはJ・ボーデン・ベンスンと名乗る男から切符を買うための金を借り、特等客車で同席になります。そこでベンスンから、ある金持ちの夫人がホワイト・ルビーという宝石を所有しており、自宅のなかで誰も手に入れることができない場所に隠しているという話を聞きます。アーミストンはこれを題材にして怪盗ゴダールにそのホワイト・ルビーを盗ませる小説を書き上げますが、その発表の翌日、本当に夫人のホワイト・ルビーが盗まれてしまいます。本短編集で唯一、ゴダール自身の物語では無く、その作者であるアーミストンの物語として描かれています。虚構と現実をうまくミックスさせた異色作です。
目隠し遊び
−Blind Man's Buff−
ゴダールは盲目の魔術師マルヴィノから「五十人の百万長者予備軍」と呼ばれるクラブの男たちと賭けをした話を聞きます。それはクラブのある部屋にマルヴィノが閉じ込められ、五分後にマルヴィノがその部屋から消え去ることができるかというものでした。そしてマルヴィノはゴダールからクラブの詳細を聞きながらも、当日は決してクラブに近寄らないよう約束を求めます。密室物のひとつで、そのトリックはある作品と同じです。トリックそのものよりも、部屋から脱出するまでのマルヴィノの行動がスリリングで楽しめます。
千人の盗賊の夜
−The Night of a Thousand Thieves−
マンハッタンにあるメイデン・レーンと呼ばれる宝石商が集まっている地域で、深夜に車を停めてマンホールの蓋を探している不審な男を巡査004は見つけますが、下水管の検査官だと言う言葉を信じてそのまま開放します。しかしその1時間後、同地域にある1700以上の盗難警報機が一斉に鳴り出し、同数の金庫が同時にこじ開けられるという前代未聞の事件が発生してしまいます。会話をあまり持たず、状況描写で書き連ねた変わった作品です。ゴダールは最後まで登場しませんが、後ろで糸を引いている感じを持たせていることが逆に存在感を感じさせます。
隠された旋律
−Counterpoint−
株価暴落のニュースを受けてゴダールは急ぎ証券会社へと向かいます。彼がそこで待っていたのは、かつて地球の隅々まで及ぶ組織を持ち、各国首脳たちと密接な繋がりを有していながらも、現在は隠遁生活を送り、実際の住居は謎に包まれているウェリントン・メイプスとう男でした。メイプスの尾行に成功し、彼の屋敷を突き止めたゴダールはある物を求めて潜入します。ゴダールが最も怪盗らしい活躍をする一遍です。暗号文も出てきます。
五本めの管
−The Fifth Tube−
新しい合衆国貨幣検質所の庁舎には電解精製プラントがあり、不純物から金を分離する作業を継続的に行っていました。しかし、そこの管理責任者たちが現場を離れたすきに、タンクに溜まっていた40ガロンもの金の液体が跡形も無く消え去っていたのです。その頃、現場の近くにいたのは排水口のごみ止めから泥をさらう仕事をしていた清掃夫一人でした。なんと言ってもオチがいい。本短編集に含まれている作品はどれもオチに気を使っており、読後感がいいです。
スター総出演
−An All-Star Cast−
趣味として風変わりな食事場所を探していたグリムジー青年は、<グリッティンズ・ダイニングルーム>と看板のついた安っぽいコーヒーハウスのような店に入ります。何度呼んでも誰も出てこないので、グリムジー青年が店の奥へと進むと、裏庭の向こうに明かりが見え、誰かがいる気配がします。そして青年が窓から覗き込むと、なかにはカーネギーやロックフェラーという著名人が座わっていたのです。ここでのゴダールはこれまでと一味違って人助けに働きます。彼が金目的に盗みを働いている訳では無いことが実証されています。

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