The Wrong Box

「箱ちがい」


ロバート・ルイス・スティーヴンスン

ロイド・オズボーン


1889

★★★
国書刊行会
千葉康樹訳

 まとまった人数の子供たちが集まって、おのおのが一定の金額を出し合い、最後まで生き残った者が利息を含めた全額を受け取る「トンチン年金」。開始からすでに70年近くが経った今、生き残っているのは兄マスターマンと弟ジョゼフのふたりだけでした。そこにジョゼフと甥のモリスたちが乗った列車が事故をおこし、ジョゼフと似た人物の死体が発見されます。ジョゼフが死んでしまったと信じたモリスは、「トンチン年金」欲しさにその死体を隠すことを決意します。そしてモリスは樽に死体をつめ自宅に送付しますが、後日届いたのは全く別の箱だったのです。結局死体の入った樽はアカの他人のもとへ送られてしまったのでした。

 『宝島』や『ジーキル博士とハイド氏』などでお馴染みの文豪ロバート・スティーヴンスンが息子のロイド・オズボーンと書いたのが本書です。解説で「お気楽メタ・ミステリー」と表現されているように、探偵や犯人が登場する本格物ではなく、死体が転々とする様をおもしろおかしく描いた19世紀のユーモア小説です。コメディ・ドラマで笑い声が挿入されるような場面をあちこちに散りばめ、しかも死体の行く末を常に案じさせることで緊張感も持たせています。最終的に「トンチン年金」が誰のものになるかが最大の焦点ですが、その結果自体に驚くことはないものの、割と意外な着地を見せてくれます。死体が移されるごとに出てくるイギリス19世紀の文化も味わい深いです。

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