Insoluble

フランシス・エヴァートン


1934

★★★
Collins Crime Club
1st edition in UK

 英インダストリアル・ケミカル会社の支店重役であるセシル・マニング氏が鍵のかかった自室のベッドで死んでいるのが発見されます。そばには「ペローナル」と書かれた錠剤のビンが置かれており、それを飲んで死亡したと考えられました。ところがセシル・マニング氏が自殺をするような理由は見当たらず、殺された可能性が高まってきます。妻との仲違い、特許権をめぐる研究者との確執、そして「ペローナル」が水には溶けず、アルコールに溶けるという特殊な性質をもった錠剤だったという事実など。後にセシル・マニング氏が遺書を最近作り直したことが判明し、さらには毒入りチョコレートによる殺人未遂事件まで発生してしまいます。

 1920年代から30年代にかけて英コリンズ・クライム・クラブから6冊のミステリを出した英作家フランシス・エヴァートンの第3作目です。ロバート・エイディー氏の『Locked Room Murders』にも本書は掲載されていますが、その実、完全な密室物ではありません。本書は被害者の義理の兄弟である弁護士ピーターの一人称によって全編が書かれているのですが、ピーターは被害者の部屋のドアに内側から鍵がかかっているのを知るや否や、開いている窓から入って被害者を発見するのです。よって入室・退室に関してトリックの議論はされません。ピーターの一人称で書かれているだけあって、プラット警部率いる現地警察の捜査状況が気になるところですが、これに関しての記載もあまりなく、最後に警察サイドがあっと驚く事実を明かすこともありません。それでも最後にはどんでん返しが用意してあり、結末の仕上げには満足しました。タイトルのInsolubleには(水に)「溶けない」という意味と、(事件が)「解けない」という意味が掛けられています。

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