La Mort Vous Invite

「死が招く」

ポール・アルテ


1988

★★★★
ハヤカワ・ポケットミステリ
平岡敦訳

 ロンドン警視庁部長刑事のサイモン・カニンガムは婚約者の父でありミステリ作家であるハロルド・ヴィカーズから夕食会に誘われヴィカーズ家を訪れます。しかしヴィカーズ家の住人は誰もそんな夕食会のことは知らされておらず、事実ハロルド自身も前日の午後から書斎にこもりっきりだったのです。不審に思ったハロルドの妻デインは書斎をノックし夫を呼びますが、なかから返事はありません。書斎は内側から差し錠がかけられており、窓も鎧戸が閉まっていました。サイモンらが仕方なくドアを壊しなかに入ると、出来上がったばかりの豪華な夕食が用意されたテーブルでハロルドは息絶えていたのです。頭の半分がフライパンのなかに沈んで顔は焼けただれており、片手には銃が握られていました。一見するとハロルドは自殺したかに思われましたが、死後24時間経っていることが判明し、警察は殺人事件として捜査を開始します。そしてハロルドがこれと全く同じトリックと使ったミステリを執筆していたことや、20年前にも同様の事件が起きていたことが明らかになってきます。

 ポール・アルテの翻訳2作目(原書出版順では3作目、執筆順では4作目)も直球ど真ん中のガチガチ本格物です。密室殺人、双子の兄弟、死者の怨念など本格好き垂涎の要素を巧みに駆使して、凝りに凝ったパズラーに仕上がっています。『第四の扉』同様に、パズルに偏重し過ぎているきらいがあり、著者独自の世界観や価値観が作品から感じられないのが残念です。それでも、ツイスト博士が真犯人を指差した瞬間には声を上げそうになるくらい驚かされことは、快感以外何物でもありませんし、成熟した本格好きの読者が読むことを見越した上での数々の仕掛けにはとにかく脱帽します。

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