世界探偵小説全集35

Who Goes Hang?

「国会議事堂の死体」


スタンリー・ハイランド


1958

★★★
国書刊行会
小林晋訳


あらすじ
 イギリス国会議事堂にあるかの有名な時計塔ビッグ・ベンの鐘楼直下の壁のなかからミイラ化した死体が発見されます。死体を検分した結果、サンドバッグのようなもので後頭部を殴られた痕跡があり、着ていた服から約100年前に死亡したものと推定されました。被害者が自身の選挙区民であると推測した若手国会議員のひとりヒューバート・ブライは、同僚議員を集めて私的な委員会を設置し、この事件の謎にせまります。

感想
 現場が国会議事堂で探偵が国会議員というユニークな設定です。物語の前半では委員会の面々が集めた情報をもとに100年前の事件が構築されます。ひとつひとつの事実から論理的に事件が組み立てられるパズラー的趣向です。しかし中盤になって、たったひとつの些細な事実からそれらすべてが崩れ去り、後半はブライひとりが探偵役となって事件の真相を探り出そうとします。読者の興味も犯行トリックから意外な犯人へと移っていきます。前半で作られた完璧なまでの推理が一瞬にして破綻をきたすシーンがとても印象的であり、本作品最大の見せ場と言えるでしょう。始めはやけに読みづらいと思った文章も、半ばを過ぎるあたりから個性だと感じ始めるから不思議なものです。

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