世界探偵小説全集42

The Thing at Their Heels

「テンプラー家の惨劇」


ハリントン・へクスト


1923

★★★
国書刊行会
高田朔訳


あらすじ
 イングランドの名門テンプラー家は、現在サー・オーガスティン・テンプラーを長にして、わずか数人にまで減っていました。奇怪な出来事は、先祖伝来の屋敷キングスクレセットで黒ずくめの不審な男がサー・オーガスティンの遺言状を盗み見するところから始まります。まず、サー・オーガスティンの命の恩人で遺産相続者でもあった人物が事故死し、次にサー・オーガスティンの息子マシューがドイツ製の弾丸で殺されます。それ以降も次々とテンプラー一族が殺されていきますが、その現場ではいつも謎の黒ずくめの男が目撃されていたのでした。

感想
 『赤毛のレドメイン家』と同じく、現代の読者にミステリの謎は簡単に見破られるでしょう。登場するヤードの警部も全くと言っていいほどの役立たずです。それでもこの一族崩壊の悲壮な物語に感じるところがあるのは、悲劇を少しでも癒そうとする宗教の敬虔さにあります。その善悪はさておき、独特の世界観が物語の根底を支えており、運命としてテンプラー家が崩壊するがごとく描いているのです。

「閲覧室」へ戻る