世界探偵小説全集31 Jumping Jenny 「ジャンピング・ジェニイ」 アントニイ・バークリー 1933 ★★★★ | |
国書刊行会 狩野一郎訳 |
あらすじ
出席者の各々が有名な殺人者や被害者に仮装した奇妙なパーティーが小説家ロナルド・ストラットン宅で開かれます。演出効果を高めるために、屋上には三体の人形が絞首台に吊るされていました。そのパーティーの席上、ロナルドの義妹イーナは自己顕示欲の強さから悪ふざけを繰り返し、周囲から顰蹙ばかりを買います。そしてパーティーもお開きになろうとした深夜、イーナが屋上の絞首台に首を吊って死んでいるのが発見されます。出席者の一人だったロジャー・シェリンガムはある事実からその死因に疑問を抱き、独自の捜査を始めます。
感想
一体バークリーのミステリに対する果敢な挑戦はどこまで続くのでしょう。本格ミステリの枠組みは維持したまま、定石とは全くかけ離れた駒の進め方をします。通常ミステリ作家が事件の真相から読者の意識を逸らそうとミス・ディレクションを仕掛けた場合、読者はそれに引っかかったことを知らずに読む進め、最後に騙されたことに気づく訳ですが、本書ではミス・ディレクションされていることを明らかに知った上で読み進めるという奇妙な現象を体験できます。そのミス・ディレクションを導いているのが探偵ロジャー・シェリンガム自身であることが大きな驚きであると共に、その独創性に感嘆させられます。本書のおもしろさはそのロジャー・シェリンガムのドタバタ迷走ぶりであり、その行き着く先が驚くべきかつブラックなエンディングなのです。
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