世界探偵小説全集37

Mist on the Saltings

「塩沢地の霧」


ヘンリー・ウエイド


1933

★★★
国書刊行会
駒月雅子訳


あらすじ
 売れない画家ジョン・パンセルは妻ヒラリーとともにイングランドの片田舎ブライド・バイ・ザ・シー<海辺の花嫁>に移り住みます。ブライド・バイ・ザ・シーは小さな海辺の村で、中心部には泥の低湿地帯が広がり、そのなかを水路が迷路のように這いまわっていました。この村でパンセル夫婦は小説家のダラス・ファインズと出会います。ファインズは下心を持ってヒラリーに近づき、ヒラリーもジョンの不甲斐なさから次第にファインズに心を許すようになり、夫婦の関係は破局寸前にまで陥ります。ある夜、三人はパンセル家で夕食を共にし、ファインズは泥酔した状態で濃霧のなかを帰路に着きます。そしてその翌々日の朝、ファインズが湿地帯のなかで窒息死しているのが発見されるのです。

感想
 前半は、パンセル夫婦の生活を中心にして、ブライド・バイ・ザ・シーに住む人々をその自然とともにじっくり描き、事件の起きる土壌をしっかり固めます。事件発生後の後半は視点を警察側に移すのですが、閉鎖的になった住人に対して捜査をてこずる警察のなんと頼りないことか。そして真相は意外な形で明らかになるのですが、これが実に印象的です。頼りない警察の捜査もこの結末に導く重要な要因となっており、ミステリとしてはとても斬新な形をとっています。探偵が出てきてロジカルに解くだけがミステリでは無いことを改めて思い知らされました。

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