世界探偵小説全集30

Death to the Rescue

「救いの死」


ミルワード・ケネディ


1931

★★★
国書刊行会
横山啓明訳


あらすじ
 グレイハーストという静かな村の地主グレゴリー・エイマー氏は、隣に住むモートン氏がかつてビルとビルの間をロープで渡ってみせた俳優のボウ・ビーヴァーに似ていることに気づきます。ボウ・ビーヴァーがスクリーンの世界から突然姿を消した理由は今もって謎とされており、彼が現在どこでどういう生活を送っているのか誰も知らなかったのです。彼が引退する直前にいくつかの事件が発生していたことに興味をもったエイマー氏は、モートン氏が本当にボウ・ビーヴァーであるのかどうか独自に調査を始めます。

感想
 被害者でも探偵でも警察でも無い人間が興味本位から事件の真相を探ろうとする行為は、モチベーションの不足という意味でいささか不自然な部分も発生しますが、「覗き見」に代表される人間の裏側の本性を描くことにはうってつけの設定のようです。本書の読者はグレゴリー・エイマーの探偵術に感心するのでは無く、彼がときたま見せる下心を嘲笑しながら意外な結末を待つ事になるのです。騙し絵を期待すると当てが外れますが、最後に見せてくれるプロットの妙は一読の価値ありです。黄金時代に著者が放った新しい結末の形は、本格ミステリの在り方に一石を投じています。

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