世界探偵小説全集38

Stop Press

「ストップ・プレス」


マイクル・イネス


1939

★★★
国書刊行会
富塚由美訳


あらすじ
 作家リチャード・エリオットが創出した<スパイダー>。犯罪者であり、探偵でもある<スパイダー>をリチャード・エリオットは三十七作にも及ぶ作品に登場させ、<スパイダー>は読者から圧倒的な人気を得ていました。その<スパイダー>生誕20周年を記念するパーティーがエリオット家で催されますが、その席上で<スパイダー>が現実の世界に現れたかのような事件が連続して起こります。しかもその<スパイダー>の行動はリチャード・エリオットが頭のなかで一人構想していたもので、リチャード以外が決して知り得ることができないものだったのです。

感想
 500ページを超える超大作。ところがその厚さが全く苦になりません。設定された謎がおもしろい上に、更なる謎が起きる期待感がとても大きく、その期待感だけでページを繰ってしまいます。所詮起きているのはイタズラなので、探偵役のアプルビイ警部の態度にそれほど緊張感はありません。ところが事件に巻き込まれているエリオット家の人々並びにパーティーの参加者達はいたって真剣で、そのギャップがおかしいのです。アプルビイ警部がかくれんぼをするなど、その行為自体で笑わせてくれるシーンもあります。イネスらしく随所にイギリス文学に関する知識が散りばめられており、その知識をジョークに添えることで作品が引き締まっています。

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