世界探偵小説全集29

Swan Song

「白鳥の歌」


エドマンド・クリスピン


1947

★★★
国書刊行会
滝口達也訳


あらすじ
 公演を間近に控えたワーグナーのオペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の稽古期間中、バス歌手であるエドウィン・ショートハウスは指揮者や共演者とトラブルばかり起こしていました。ある夜、そのエドウィン・ショートハウスが楽屋で首を吊って死んでいるのが発見されます。死亡推定時刻には誰も楽屋に入った者がいないと守衛が証言したことから自殺の可能性が高まりましたが、共演者の睡眠薬の盗難、殺人を練習したかのような骸骨の発見など周囲の状況は他殺を示唆していました。共演者からの依頼でオックスフォード大学のフェン教授が調査を開始しますが、更なる怪事件が発生してしまいます。

感想
 ワーグナーのオペラを題材にしていますが、決して難解に作られているわけではなく、芸術としての良さをうまく紹介しながら実に綿密にミステリと融合させています。驚くことに、関係者の行動や事件の展開までが『マイスタージンガー』の内容と密接な関係を持っているのです。トリックの必然性が判りづらいですが、犯人の意外性は十分にあり、フェン教授の真相を話す場面も芝居がかっていて楽しいです。男女の物語が巧みに織り込まれているのが好印象を与えます。

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