18 Locked Room Puzzles

「これが密室だ!」


ロバート・エイディー
森 英俊


新樹社

収録短編

十六号独房の問題 エドワード・D・ホック
−The Problem of Cell 16−
サム・ホースン博士が銃弾による負傷者を町へ運ぶ途中、一台の車と衝突する。偶然にも相手はお尋ね者の詐欺師で、逮捕され後、最近できたばかりの留置所に入れられる。しかし詐欺師は一晩でその留置所から逃げ出した。ジャック・フットレルの名作『十三号独房の問題』を意識した作品ですが、全く違ったストーリー展開をします。独房からの脱出をテーマにしたところは同じで、こちらはちょっとしたスキをついた妙技を見せてくれます。
見えないアクロバットの謎 エドワード・D・ホック
−The Problem of the Invisible Acrobat−
多くの観客が見守る中、サーカスの花形である空中ブランコの演技中に兄弟曲芸師の一人が消えた。その日は行方が知れなかったが、翌日近くの屋敷でピエロの衣装をまとい死体となって発見される。不可思議なことの真実を垣間見るという意味では、ミステリの謎解きとマジックの種明かしは似ていますが、この作品はその両方を兼ね備えています。観客の目前での人物消失はとびきりの大マジックですから。
高台の家 ヘイク・タルボット
−The High House−
ダンヴァース家にまつわる呪い、それは代々の屋敷の長が殺され続けるというものだった。それを実証するかのように、今日戻ってきたばかりの提督が落下死する。関係無いと思われた人物とダンヴァース家の血のつながりをほのめかす手紙が発見され、さらに犠牲者が増えるかと思われた。トリック自体はさほど感心しませんが、犯行動機の設定などはうならされます。
裸の壁 フランシス・マーテル
−Blank Walls−
田舎のパブの路地裏から叫び声が聞こえた。偶然居合わせた元警視が駆けつけると、そこには死体となった男が横たわっていた。一方路地の反対側から駆けつけた男達は誰にも会わなかったと言う。果たして犯人はどこへ消えたのか。「音は聞こえなかったの?」と問い掛けたくなりますが、こういった作品があったからこそ、より完全な不可能犯罪を作家達は追い求めたのでしょう。
放送された肉体 グレンヴィル・ロビンズ
−The Broadcast Body−
研究者の男が甥を呼んで、自分の体を無線にのせ何マイルも離れた場所へ送る機械を発明したと言う。実際次の日に兄弟の家へ向けて実験を行なった研究者だったが、自宅からは消えたが、兄弟宅には着いていない、全く空中で消失する事態になってしまった。立体情報を送るということであれば、いつか本当にこの機械が発明される日が来るでしょう。しかしそれは全く異なる理由からだと思いますが。
ガラスの部屋 モートン・ウォルソン
−The Glass Room−
クラブの電話ボックスで銃殺された男が発見される。たまたまそのクラブの風俗犯罪を取り締まろうとしていた警官が悲鳴と共に駆けつけ捜査にあたったが、全員の身体検査を行なっても肝心の拳銃が見つからなかった。犯人特定が論理的にできているのが圧巻です。文中登場する「からかわれた名探偵達」もミステリ好きにはたまりません。
トムキンソンの鳥の話 E・V・ノックス
−Tomkinson's Bird Story−
リジェント・パーク近くの高層フラットで男の刺殺死体がが発見される。ドアには鍵がかかっていたが、窓は開け放たれていた。これぞショート・ショート。短いながら非常に印象に残る作品の一つです。
罠 サミュエル・W・テイラー
−Deadfall−
雪におおわれた山小屋に二人の男が閉じ込められる。一人の男は足を骨折し動けないため木を削っていた。もう一人の男は日記のなかで小屋のまわりにいつしか付いた足跡の恐怖を綴っていた。一つの日記を二人が交互に書くことにより物語が進展するという手法が魅力的です。
湖の伝説 ジョセフ・カミングス
−The Spectre on the Lake−
二人の男がボートに乗り湖の沖へ釣りに出た。半時間後、湖の真ん中から銃声が聞こえ、あわててモーターボートでバナー警部が近づくと、なんと二人共頭の後ろを撃たれて死んでいた。男達はボートに乗る際、拳銃は絶対持参しておらず、また誰かが湖岸から二人を撃つにはボートはあまりにも遠すぎた。犯行手段が見つからないという不可能犯罪ですが、真実は見事に可能にしています。
悪魔のひじ ジョセフ・カミングス
−The Devil's Elbow−
スキーを兼ねて二組の夫婦が山小屋で過ごしていた。一人の妻が足を痛め、四人は小屋の中でブリッジを始めた。その最中に足を痛めていた妻が小屋の外からと思われる銃弾で殺される。しかし犯人の姿はおろか、足跡すら発見することができなかった。サスペンスに満ち溢れた展開がどんでん返しで終る傑作です。
ブラスバンドの謎 スチュアート・パルマー 
−The Riddle of the Brass Band−
数千人にも及ぶ聖パトリック祭のパレードのさなかに、一人の男が落下してきた。男はビルの15階にある小さな出版社の社長で、自室に鍵をかけこもったままだった。当初自殺かと思われたが、周囲の人間に他殺の動機があることから女性教師探偵ヒルディガード・ウィザーズが捜査にあたった。スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンばりに活躍するウィザーズが爽快です。

消え失せた家 ウィル・スコット 
−The Vanishing House−
浮浪者探偵ギグランプスは「助けてくれ」という声を聞いた後、家の前で死んでいる男を発見した。警察に通報後、巡査と一緒に現場に戻ったギグランプスは死体を確認するが、家がまるごと無くなっていることに気づく。家が消失するという設定がミステリ・ファンにはたまりません。ギグランプスの個性がうまく描かれています。
見えない凶器 ニコラス・オールド
−The Invisible Weapon−
舞踏室の暖房装置を点検するために技師二人が部屋に閉じこもった。一人が出てきた後、もう一人の男が死体となって発見される。犯人はその男しか考えられないが、凶器らしきものを所持しておらず、断定できずにいた。殺害方法は古典的手段ですが、それを隠匿しようとする設定がうまいと思います。
メッキの百合 ヴィンセント・コーニア
−The Gilt Lily−
イギリスの機密の中枢である部屋にいたサーティーズ卿所有の機密情報が何者かに盗まれた。部屋自体が厳重な監視の元にある上、卿自身の内ポケットに入っていた封筒が盗まれるという全くの不可能犯罪だった。文章が少々難解ですが、読み応えはあります。
死は八時半に訪れる クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ
−Death at 8:30−
X・Kは過去に10回の脅迫を行なっており、7人は金を払ったので助かったが、3人は拒否したため殺された。そして今度は内務大臣を脅迫してきた。金は払わず、イングランド銀行の金庫室に閉じこもった大臣だったが、脅迫状通りの時間に苦しんで死んでしまう。トリックを見破り、そのトリックで犯人を追いつめる展開に味があります。
謎の毒殺 マックス・アフォード
−Poison Can Be Puzzling−
金持ちの男が何者かから殺しの脅しをかけられ、警察に保護を求めてきた。男はブラックバーン氏や警官達と自宅で挨拶をかわした後、着替えるために寝室に入るが、その中で毒殺されてしまう。床には割れたグラスが有り、毒物が混入されていると思われたが、猫が平気に飲んでしまった。警察の目前で不可能犯罪が行われるため、緊迫感が楽しめます。
危険なタリスマン C・デイリー・キング
−The Episode of the Perilous Tailsman−
エジプト遺跡から見つかったタリスマンと呼ばれる呪いの箱があった。箱を開けた者は必ず死ぬという不思議な事実があり、箱の現所有者である政治家がタラントのもとへ相談に来た。非常に珍しい真相が用意されており、不可思議さを増して終る感もあります。
ささやく影 ジョン・ディクスン・カー
−He Who Whispers−
セントポール大聖堂の上にある「ささやきの回廊」で男は死を予言する幽霊の声を聞く。その時回廊には二人の男がいたが、話している気配は無かった。数日後、男は寝ている最中に息苦しくなり、起きてみると部屋にガスが充満していた。短いラジオ台本ですが、カー特有の恐怖感が良く表れています。トリックは見覚えのある物なので目新しくはありませんが、密室にこだわる姿勢を買いたいと思います。

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