The Maze 「迷路」 フィリップ・マクドナルド 1932 ★★★ | |
ハヤカワ・ポケットミステリ 田村義進訳 |
ロンドン郊外ケンジントンの高級住宅地で実業家のマックスウェル・ブラントン氏が殺されます。現場は屋敷2階奥にある被害者の書斎で、右眼頭部を鉱物塊で殴られたことが死因とされました。死亡推定時刻が深夜であったことや現場の状況から、犯人は当夜同家に滞在していた家族と使用人のなかに限定されました。しかし警察は犯人を特定することができず、仕方なく休暇中のゲスリン大佐に検死審問の全記録を送り、彼に真相究明を依頼することになりました。
「すべての手がかりを開示して挑戦する読者に対して完全にフェアなミステリ」と銘打った著者の長編六作目です。1981年7月号と8月号の『ミステリ・マガジン』に分載されたきり長らく埋もれていた同作品が今年一冊のポケミスとなって帰ってきました。事件の全容を書簡と検死審問の記録だけで表すことにより、読者と探偵役のゲスリン大佐をフェアな関係にしています。もちろんそれらに隠された手がかりは簡単に見つかるものではなく、ゲスリン大佐の推理を純粋に堪能することができます。証言者の順番を操作することにより隠れた事実を少しずつ明らかにさせていく著者の手並は見事で、真の手がかりを読者に見過ごさせる効果も持たしています。ゲスリン大佐が証言記録からだけで犯人の性格を分析するのには首をかしげたくなる面もありますが、まさにパズルを組み立てるように事件を解き明かす様は一読の価値ありです。
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